2021年の米大リーグア・リーグ最優秀選手(MVP)に18日選出されたエンゼルスの大谷は、自らが思い描く理想像に近づいて栄誉を手にした。代名詞の「二刀流」で、打者ではシーズン最終盤まで本塁打王争いを演じ、投手としてはエース級の働き。さらに26盗塁と足でもアピールした。現代野球では類を見ない八面六臂(ろっぴ)の活躍で、他の候補を寄せ付けなかった。
かつて、大谷に理想の選手像を問うと「何でもできるのがもちろんいい」と答えた。投手と打者で活躍するだけでなく、走塁でもチームに貢献し、「捕手をやれと言われたら捕手をやって完璧にこなす。一塁手をやれと言われたら一塁手を完璧にこなす。それが全部できたら、もちろん一番いい選手」と話していた。しかし、それはプロの世界では現実的ではない。「だから打撃も投球も、できることを人よりも多くしたい」
今季の大谷は、打球に角度がつきやすいが技術もパワーも必要なアッパースイングを物にし、メジャーでも屈指の強打者へと成長した。一方で、試合の流れを読んで出塁することが重要だと判断すれば、巧みにセーフティーバントを決める場面もあった。
投手としては100マイル(約161キロ)超の直球を主体とした力勝負のイメージが強かったが、今季はバットの芯を外すカットボールをうまく使い、打たせて取る投球も披露。シーズン途中には四球や球数の多さといった課題を克服した。
今季を振り返り、「確実にレベルは上がった。そこは自信を持って言える」と語った。打って、投げて、走って。大谷が「できること」は誰よりも多い。
エンゼルスの大谷はMVP投票で、記者30人全員から1位票を獲得した。
米大リーグ公式サイト「MLB.com」でエンゼルスを担当するレット・ボリンジャー記者も大谷を支持した。「大リーグ史に残る活躍だった。私たちは誰もツーウェー(二刀流)で、これだけいいプレーをした選手は見たことがない。今回はとても簡単な投票だった」。1位票は大谷、2位票はゲレロ、3位票はセミエンに投じた。
ゲレロはシーズン終盤まで三冠王を争い、本塁打王を獲得した強打者。ボリンジャー記者も「打撃だけを見れば、大谷はゲレロに少し劣っていた」と認める。ただ、大谷は投手としてエース級の働きで9勝を挙げた。「投球を考慮に加えれば、大谷は全ての選手を上回る。(自身の投票における)1位大谷と2位ゲレロとの差は小さいものではない」と強調した。
野茂からイチロー、大谷へ 日本選手のタイトル受賞
【ニューヨーク時事】米大リーグで日本選手が初めてタイトルを獲得したのは1995年。「トルネード投法」を武器に海を渡った野茂英雄(当時ドジャース)の新人王にさかのぼる。野茂は同年とレッドソックス時代の2001年に最多奪三振も記録。60年代に村上雅則が日本人初の大リーガーとなって以来、野茂が約30年ぶりにメジャーへの扉を開き、その後は多くの選手が挑戦した。
打者では、01年にマリナーズに移籍したイチローが米球界に新たな歴史を刻んだ。1年目に首位打者、盗塁王と新人王に輝き、日本選手初のMVPに。04年にはシーズン262安打の大リーグ記録を樹立。「レーザービーム」と呼ばれた強肩でも知られ、堅実な外野守備で10年にわたってゴールドグラブ賞に選出された。
イチローの2年後にメジャーデビューした松井秀喜は、名門ヤンキースで主力としてプレー。09年のワールドシリーズMVPなど、大舞台で多くのファンの記憶に残る活躍を見せた。
12年から大リーグでプレーするダルビッシュ有(パドレス)は、レンジャーズ時代の13年に最多奪三振。新型コロナウイルスの影響でシーズンが短縮された20年には、カブスで最多勝利もマークした。
今年、大谷翔平(エンゼルス)は投打での活躍が「歴史的な偉業」と評価され、マンフレッド・コミッショナーの就任後初となるコミッショナー特別表彰を受けた。ライバルらによる選手間投票でも年間最優秀選手を受賞。「二刀流」の信念を貫いて手にしたMVPで、輝かしい勲章がまた一つ加わった。
大谷 翔平(おおたに・しょうへい)岩手・花巻東高からドラフト1位で13年に日本ハム入りし、投打の「二刀流」に挑戦。14年に11勝、10本塁打で日本球界初の「2桁勝利、2桁本塁打」を達成。15年には最多勝(15勝)、最優秀防御率(2・24)、最高勝率(7割5分)の投手タイトルを獲得した。16年には投打にわたる活躍で優勝と日本一に貢献し、パ・リーグMVP。18年からは米大リーグのエンゼルスでプレーし、同年ア・リーグ新人王。今季のオールスター戦は史上初めて投手と打者の両方で選出された。193センチ、102キロ。右投げ左打ち。27歳。岩手県出身。