―昨年を振り返って。
「紙生産の縮小傾向は変わらない中、昨年は工場関連で発表3件があった。2月のN2号マシン設備停止、5月の純国産e―メタン(合成メタン)製造の共同検討開始、9月の9号マシン設備停止(3月予定)。今後の方向を含めて積極的に考える年になった。(利益につながる事業)ポートフォリオの転換で紙の設備は停止し、他の事業に関して検討を始める。生産体制を検討、着手でき、無事故・無災害で過ごせた」
―紙需要が減る中で工場維持の方策は。
「(紙の)生産縮小としては、2台とも比較的小さな能力。停止は印刷出版用紙で(主力の)新聞用紙ではない。印刷出版は王子製紙5工場あり、全体で寄せて効率を上げる考え。それほど悲観的な状況ではない。工場は国内、世界で有数の生産能力。今のうちにその分でキャッシュ、人材、インフラを使い、新しい事業や分野の柱を作り、基本事業は少しでも身軽にしたい」
―2021年に生産を始めた段ボール原紙は。
「生産は不具合なく順調。ただ、輸出は東南アジアの状況や為替の要因で伸びていない。物が動いてくれないと、一緒に段ボールが動かない。国内向け出荷は昨年、10月まで板紙で1・0%減。ちょっと落ちて戻ってきており、総量としては落ちている」
―e―メタン製造は。
「王子製紙全体でバイオマスを使った紙以外の新しい事業を展開していく大きな流れがある。苫小牧工場もいろいろ検討している中の一つで今回が第1弾。昔から水力発電がある中、再エネルギーを使える事業を考えた。(30年までに製造設備を導入し、生産量を拡大していく)目標は立てたが読めない部分がある。技術確立だけは早めにしていきたい。ゼロカーボン・脱炭素から新しい付加価値のあるものを作りたい」
―脱炭素化も進める。
「対外的と対内的の両輪で進めないといけない。エネルギー転換に向けて(木質バイオマスを一定程度炭化した燃料)ブラックペレットの具体化を進める。石炭をゼロにし、水力発電所の最大利用を図りたい。道内のバイオマスを活用したゼロカーボンにつながる新しい事業を考えていく」
―事故、災害対策は。
「無事故、無災害が目標。23年10月のN2マシンの火災後、消防の協力で防火を水平展開している。(24年は)大きな災害はなかったが、安全教育や啓発もやっていく。DX(デジタルトランスフォーメーション)で今後、数年かけて働き方の負荷を減らすことも一つのテーマ。AI(人工知能)カメラを搭載して人が近くに来たら止まるリフトも発注、準備段階で、導入する予定」
―今後の課題は。
「毎年言っているが、人材確保。市内高校からの新卒採用を続けていく。(かつて)新卒採用を控えた時期があったが、おととしぐらいから方向転換した。(離職対策では)エンゲージメントという言い方で、働きがいのある工場はどんな工場かを始めた。根本的なところを問われている」
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2025年がスタートした。物価やエネルギー価格の高騰が長引き、あらゆる業界で人手不足が深刻化する一方、苫小牧では昨年ソフトバンク(東京)のデータセンターが着工し、脱炭素関連の先進的な事業も相次いで始まった他、この春には隣の千歳市で次世代半導体製造ラピダス(同)が試作ラインの稼働を始める予定だ。市内の各企業トップは各業界や自社の現状をどう捉え、今年どのように展開しようとしているのか。インタビューした。
メモ 「紙のまち」苫小牧を代表する企業で、苫小牧工場は1910年に創業。新聞用紙や段ボール原紙などを製造する主要拠点で、持続可能な社会に貢献しようと新規事業にも積極的。従業員数は500人規模。