白老町のアイヌ文化復興拠点・民族共生象徴空間(ウポポイ)の開業が、新型コロナウイルス対策で当初予定の今月24日から5月29日へ延期された。北海道アイヌ協会の加藤忠理事長(80)=白老町在住=が本紙のインタビューに応じ、政府の延期方針やウポポイに対する思いを話した。
―オープン延期をどう考えるか。
アイヌ民族の歴史や文化を国内外に伝える拠点の誕生を楽しみにしていたし、オープンに向けて官民がさまざまな準備を進めてきた。そうした中で延期となったことは、残念であるけれど、やむを得ないと考えている。新型コロナウイルス感染が世界中にまん延し、国内でも患者が日に日に増えている。今は目に見えないウイルスとの戦いが最重要であり、拡散を防ぐためウポポイの開業を遅らせる政府の判断は理解できる。
―改めてウポポイへの思いは。
幕末や明治以降のアイヌ民族は、苦しみと悲しみの歴史を背負ってきた。同化政策で独自の言葉や文化も奪われてしまい、民族の尊厳と誇りを取り戻すことがわれわれの願いであった。共生社会を目指し、政府や国会議員にずいぶんと働き掛けた。和人によるアイヌ民族への非道をつづった幕末の探検家松浦武四郎の日誌コピーを東京へ持参し、足を棒にして各党の国会議員に配り歩いた。民族の歴史を正しく伝えたいと必死だった。やがてアイヌ政策を推進する超党派の議員連盟などがつくられ、ウポポイの整備や、アイヌ民族を法律で先住民族と位置付けたアイヌ施策推進法の成立につながった。それだけにウポポイに対する思いはひとしおだ。
―開業が5月末に先送りされたものの、ウポポイへの期待は。
ウポポイは、アイヌ民族にとって大きな歴史の一歩となる重要な施設だ。文化の伝承や発信の機能だけでなく、研究目的で全国の大学が長く保管してきた民族の遺骨を納める慰霊施設も整備された。共生社会や民族の明るい未来につながると期待している。新型コロナが一日でも早く終息し、喜びの中でオープンを迎えたいと願っている。