新型コロナウイルス感染拡大の防止に向け、政府がアイヌ文化復興拠点・民族共生象徴空間(ウポポイ)の開業延期を発表した7日、地元白老町で各方面からさまざまな反応が広がった。感染者が急増している国内の情勢を踏まえ、政府の判断に理解を示す町民が多い一方、経済団体からは地元事業者への影響を懸念する声も上がった。
「先延ばしになって良かったと思う」。町内会連合会の吉村智会長(73)は町民の声をそう代弁した。大都市圏を中心に感染が急拡大する中、各地から見学客が集まる施設の開業によるウイルス侵入を心配していたからだ。「地元の開業機運の高まりに水を差す感じになったが、命には代えられない。白老は(重症化リスクがある)高齢者が多いまちだけに、ベストな選択だ」と話した。
白老アイヌ協会の山丸和幸理事長も同じ意見。「無理に開いて万が一、感染者が出れば、まちやウポポイへの影響は大きくなる。慌てることなく、安心の環境になった中で来館者を迎える方がいい」との考えだ。
ウポポイを生かした地域活性化を掲げ、観光インフォメーションセンター建設など観光客の受け入れ整備を進めた白老町の戸田安彦町長は「国内外の現状や町民の不安を考慮すると、国の判断はやむを得ない」とし、「5月29日の開業日に向けてしっかりと準備に当たりたい」と語った。
ウポポイで古式舞踊の練習や体験プログラムなどの準備に当たる公益財団法人アイヌ民族文化財団は、7日午前の政府の発表で延期を正式に知った。「財団としては開業への作業を着実にこなしていくだけ」と冷静に受け止める。
一方、政府の方針に理解を示しながらも、地元経済への影響を懸念する声も。町商工会の熊谷威二会長は「開業を商機と捉えて飲食店を出店したり、商品開発や土産品の仕入れなどを進めてきたりした事業者にとって、延期は経済的損失を招くことになりかねない」と指摘。近く町に対し支援の要望書を出す構えだ。
ウポポイに近い大町商店街の個店でつくる白老商業振興会。観光客の受け入れを目指し、各店に飾るアイヌ文様デザインの看板製作やオリジナルの土産品作りを進めてきた中、同振興会の久保田修一理事長は「24日に向かってみんなで期待感を高めていただけに残念な思いもある」とし、「今の感染状況を考えると、延期が1カ月だけで済むかどうか」と不安視する。
観光インフォメーションセンターを運営する白老観光協会の福田茂穂会長は「政府の決定は致し方がないが、もう少し早く発表してほしかった。ウポポイを核にした観光振興の取り組みを仕切り直すなどして対応したい」と話した。
カウントダウンボード数字変更 開業延期で事業見直しも
民族象徴空間(ウポポイ)の開業日を約1カ月延期する政府の発表を受け、町は7日、各所に設置したカウントダウンボードの数字を変更する作業に追われた。
町は、開業日までの残り日数を表示するカウントダウンボードを町役場や総合保健福祉センター、町立病院など町内9カ所に設置。ウポポイ誕生を町民や来町者にアピールしてきた。しかし、新型コロナウイルス対策で政府が7日、当初予定の今月24日から5月29日へオープン日を延期するとした発表を受け、町は残り日数表示を変更。町役場ロビーでは、職員が電光表示の数字を「17日」から「52日」へ変えたり、開業日の「5月29日」のシールをボードに貼る作業を行うなどした。
町内各所のカウントダウンボードの数字や大型看板に記したオープン日も修正していき、防災無線を使って毎週水曜日に町内全域に流していた24日開業のアナウンスも止めた。
町は今後、ウポポイの開業に合わせて予定していた事業の見直しにも迫られる。JR白老駅北側の駅北観光商業ゾーン(ポロトミンタラ)で計画していたロングランイベントは、新型コロナの情勢や開業延期に伴って開始時期、内容の調整を図る考えだ。
また、ウポポイを訪れる観光客の交通利便性を高めるため、白老駅を起点にウポポイやポロトミンタラなどを巡る「交流促進バス」を24日から運行する予定だったが、開始時期をどうするか検討していくという。
町が白老駅併設の自由通路に設けた臨時改札口に関しても再検討。白老観光協会に委託し、ウポポイ営業日に合わせて臨時改札口に人員を配置する計画だったが、開業延期を受けて町の担当者は「JRと協議し今後、方向性を決めたい」としている。