浦河町出身の映画監督、田中光敏さん(61)が、襟裳岬の苦難の緑化事業を題材にした映画「北の流氷(仮題)」を構想し、2022年の全国劇場公開に向け準備を進めている。3月下旬に道庁や道内企業、日高管内などを訪れ、行政や企業、団体に対し実現に向けて精力的に協力を要請した田中監督は「古里の皆さんの協力で、胸を張って世界に見てもらえる映画にしたい」と話した。
北の流氷は、「えりも砂漠」と呼ばれた荒れ地に戦後、木を植え続け、失敗と試行錯誤を重ねながら豊かな森を再生した緑化事業を描く。アイヌ伝説で豊かな海をもたらすと伝えられてきた、岬海域を覆い尽くす“奇跡の流氷”の出現もファンタジー現実(史実)として織り込みながら、「北海道や日高の大自然を描いた本当に美しい映画にしたい」と語る。
映画の根底には「いま、自然と人間がどう向き合い、乗り越えていくのか試されている」との思いをにじませる。決して諦めずに木を植え続けた地元漁師たちの姿は、作家・司馬遼太郎が日本人の原点とした武士道精神「名こそ惜しけれ」の魂を持つと言い、「諦めず積み重ねる力が奇跡を起こす」「アイヌの人々との絆も描ければ」と話す。
日本人のあるべき姿を、緑化の中心的存在として奮闘した岬の漁師・飯田常雄さん(故人)や仲間の漁師らに見いだし、日本の先人が残した自分たちの魂、あるべき姿をしっかり伝える「事実の物語」としている。
併せて「大勢のスタッフが来て現地で自然の素晴らしさを撮るには限界がある。地元の協力を得て、映画で使える映像を提供してもらえる仕組みを作りたい」と話した。
また、道庁訪問にも同行した池田拓浦河町長、坂下一幸様似町長、大西正紀えりも町長らに対しては「非常に協力的で、道庁でも各町長とも映画製作について積極的に後押ししてくれ感謝している」と喜ぶ。3月30、31両日は映画脚本の製作費を支援している浦河、様似、えりも、十勝管内広尾町を訪問し、行政や企業らに協力を要請した。
北の流氷は現在、脚本家の小松江里子さんによる脚本製作が第2稿の段階に入った。小松さんは、日本とトルコ合作の田中監督作品「海難1890」(2016年)で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した。田中監督によると「脚本は映画の設計図。『海難』の脚本は第10稿まであった。北の流氷もこれから内容を磨き上げていく作業になる」と言う。
今年は、日仏合作の次期作品の準備を進めながら、北の流氷のスポンサー営業活動と映画製作の準備に入る。来年秋から22年春にかけて配給会社を決めて撮影と仕上げをし、22年春から秋の間に全国劇場公開を予定している。
田中監督の最新作となる青春幕末映画「天外者」は今年秋に全国で公開する予定。現在は、日本とフランスの合作映画「ロダンと花子」の製作を準備している。