胆振東部消防組合消防本部で消防長を務めた宮坂賢一さん(60)がこの春、定年退職を迎えた。消防長在職期間中の2018年9月に発生した胆振東部地震で指揮を執るなど未曽有の危機を駆け抜けた。42年間の職務を全うし、「地域住民の協力と理解、職員の実行力があったおかげでこうして持ちこたえ、乗り切ることができた」と実感を語り、「今後はこの経験をしっかり伝えていきたい」と話す。
宮坂さんは厚真町出身。高校を卒業後、同組合に入庁し、消防士として厚真支署や上厚真分遣所を中心に一線で活躍した。その後、14年に現場から消防本部に異動となり、17年に消防長に就任した。
就任2年目の18年9月6日、「記憶にも大きく残る経験だった」と振り返る胆振東部地震が発生。管轄する厚真、安平、むかわの3町が全て被災地に。本部のある厚真町は震度7を観測し、37人の犠牲者を出した。道内外の各方面から救助が駆け付け、宮坂さんも消防長として発災から4日間は最後の行方不明者が発見されるまでほぼ寝ることなく陣頭指揮を執った。「まさか受援側になるとは考えもしなかった。想定外を想定しなければいけないんだと改めて感じた」。通常の体制に戻るまで3カ月ほどかかった。
ただ、その分も「みんなが使命感の中で昼夜を問わず頑張ってくれたし、周りの消防本部にも助けてもらった」感謝の思いは尽きない。力を結集して大災害に立ち向かった経験は大きな財産になったという。そして、「これだけ多くの犠牲者を出した震災を風化させてはいけない。常に健康に留意し、あらゆる災害に強く、対応できる消防になってほしい」と後輩たちにも期待を寄せる。
いったん退職はするが、4月から再任用となり、消防本部で勤務する。「胆振東部地震は記憶にも新しく、しっかり伝えていかなければいけないこと。困っている人たちを手助けするまちづくりに貢献したいし、経験したことが少しでも役立てば」と語る。