集英社の文芸誌「小説すばる」の1月号から浦河町出身の作家、馳星周さん(54)=苫小牧東高卒=の新連載「黄金旅程」が始まった。浦河を舞台にした小説で、馬の世界の光と闇を描いていく。2枚の挿絵は、浦河町地域おこし協力隊員の山口このみさんが担当した。
馳さんは、ふるさとの小説を書くため、一昨年から浦河町や日高管内を精力的に取材し、昨年夏には初めて浦河町で約2カ月間の短期移住を体験している。
題名の黄金旅程は、馳さんが好きだった牡の名馬「ステイゴールド」(2015年没、21歳)の中国名。主人公「敬」は、浦河町で馬の蹄(ひづめ)に蹄鉄を付ける装蹄師で、天馬街道(国道336号)沿いで引退馬を繋養(けいよう)する養老牧場も営む。
新連載として巻頭を飾った第1回(12ページ)では、馬や競馬を知らない読者にも分かりやすく、装蹄師や生産牧場の仕事、関係者誰もが夢見る東京優駿(日本ダービー)を頂点としたG1や重賞レースなど競馬の世界、一大勢力として君臨する胆振地方のグループ牧場の存在などを小説の中で紹介している。
また文中には「堺町にある生協のスーパーマーケットで買い物を済ませ牧場に戻った。スーパーの近隣にはドラッグストアやホームセンター、家電販売店などもある」など、浦河に土地勘のある人には別の意味で楽しめるくだりも多くある。
昨年の短期移住時の複数取材で、馳さんは「競走馬の世界は華やかだが、馬を生産する人たちとの関わり、走らない馬やけがでたどる裏の世界もある。この表と裏の世界を描ければ」と話していた。
1996年、新宿の中国マフィアの世界を描いたデビュー作「不夜城」がベストセラーとなり、直木賞候補に。その後の「夜光虫」「M」「生誕祭」「約束の地」から2015年の「アンタッチャブル」まで6度の直木賞候補作品があり、常に注目されてきた馳さん。「エンターテインメントな小説に仕上げるのは自信がある」と、初めてふるさとを題材にした連載小説に力を注いでいる。