帯広出身で学年一つ違いの2人。葵が8歳、紅音が7歳のときに小学校のリンクで行われた体験会でアイスホッケーに出合った。中学、高校も同じ学校に進学。帯広三条高ではアイスホッケーの傍ら、共にソフトボール部でも汗を流した。葵が高校卒業にトヨタシグナスに入団すると妹も姉の後を追うように苫小牧へ。
常に同じ道を歩んできた姉妹だがクールで冷静沈着な葵はDF、好奇心旺盛でアクティブな紅音はFW。「(紅音の)がつがつしている所は本当にすごい」と葵が言えば、紅音は「プレーで困ったことがあれば姉にすぐ相談できる」。日本代表の攻守の要は互いを尊敬し合う。
葵は16歳、紅音は14歳のときに初めて代表候補合宿に招集されたが「雲の上の存在だった」(葵)代表選手たちのレベルの高さに圧倒された。2017年の平昌五輪最終予選では共に選外。代表選手との実力差を肌で感じたという紅音は「8年後に自分が代表に選ばれるなんて(当時は)想像できなかった」と語る。
当初は代表のトレーニングでも先輩についていくだけで精いっぱいだった2人だったが、互いに励まし合って実力をつけ、22年北京五輪では共に念願の代表入りを果たした。
これまで姉妹はそれぞれ海外挑戦をしてきた。紅音は今シーズン、世界トップレベルの選手が集うスウェーデンリーグのルレオでプレーしている。
居住地は離れていても頻繁に連絡を取り合い、日々のトレーニングの様子などを報告し合う。その成果もあってか氷上に上がりさえすれば「あうんの呼吸で見ていなくても大体どこにいるか分かる」(紅音)ほど。
最終予選に挑むのは初めての2人。紅音は前回の快挙を観客席で見ていただけに「偉大な先輩方が活躍した舞台と同じ場所に立てることは光栄」と意気込む。葵にとってもキャリアの中の重要な舞台で「今回も必ず勝ちたい―」。姉妹2人で五輪行きの切符をつかもうとしている。
「シュートを打ちたい。自分はシュートを打つ選手なので―」―。ベテランFWのポイントゲッターは最終予選に向け、強い決意をにじませた。
ソチ五輪最終予選に当時最年少の16歳で名乗りを挙げて、五輪には3大会連続で出場し、攻撃面の要として活躍してきたスマイルジャパンの歴戦の担い手。
この3年間で自身を取り巻く環境は大きく変化した。情熱を注いで臨んだ北京五輪で「完全燃焼」を宣言し、いったん活動休止を発表―。そして、結婚を機に長年キャリアを築いてきた釧路を離れ、苫小牧で生活してきた。
当初、活動休止の間はスティックも持たず、リンクへ行かなかった。一時は競技引退も頭をよぎったという。夫で苫小牧の社会人アイスホッケー選手の藤浪幹さんは「(競技を)やってほしい気持ちはあった。でもお願いして無理にやらせるものでもない」と同好の士だからこそ妻の気持ちに寄り添い、そっと見守った。「きっと復帰する」との予想が幹さんにはあったそうだ。
22年8月に世界選手権が転機となった。同年2月の北京五輪の準々決勝で大敗した宿敵フィンランドにスマイルジャパンが延長戦、PSS(ペナルティーショット戦)の末に破り、初の歴史的勝利となった試合をオンラインの中継映像で見て発奮。再び競技と向き合う気持ちを固めて代表活動に専念する決心をした。
苫小牧では市内の男子高校生の練習に出稽古で参加するなどして鍛錬を重ねた。自身にアイスホッケーの礎を与えてくれた母チームのDaishin(釧路)の公式戦にスポット参戦も重ねた。これまでと違う競技環境を振り返り、「改めて学んだ部分は多い」と振り返る。自身の課題を洗い出しながら、長所を補強してきた。事前合宿の練習試合などでは切れのある動きを再三見せてきた。「ゴールを決められる状態で、周りも調子がいい。気負わずにプレーしたい」。五輪切符を希求する一心で突き進む構えだ。
(おわり)