放送中に気を付けなければならない点は多岐にわたりますが、秋になると解説することが多くなる台風についても注意が必要な点が多々あります。
というのも、気象庁以外の事業者が気象や波浪等の予報の業務を行おうとする場合、気象業務法第17条の規定により、気象庁長官の許可を受ける必要があるのですが、「予報業務の許可等に付す条件」として、「台風の情報について公衆に伝達する場合は、気象庁の情報の解説の範囲に留(とど)めること」と定められているためです。
要するに、台風については、「気象庁の情報とは異なるもの」を放送中に話すことができない、というルールになっているのです。そのため、さまざまな予報モデルを確認し、どういった動きの傾向になりそうか見えていても、放送では気象庁の発表する予報円など、限られた情報の中で注意喚起をする必要があります。
例えば、8月末に各地に大きな爪痕を残した台風10号についての解説の際は、予報円が道南の一部にしかかかっておらず、予報円も大きい、という状況で解説するタイミングがありました。ただ、今回のパターンは台風が近づくか否かに関わらず、台風の北にある前線が台風の周りの湿った空気で刺激され、大雨となることが早い段階から予想されていました。そのため、「台風は本州方面を進む可能性が高いが、北海道から離れて進んでも、前線の影響で大雨になる恐れ」と解説しました。
今回のケースでは、道南に予報円がかかっている以上、「台風が近づかない」、とは言えないので、前線について特に強調して解説することで、暗に「台風は北海道から離れて進みそう」、というニュアンスを含めて話したのですが、同じようなケースで、「北海道付近に近づく恐れ」とはっきりと言っているときは、台風の接近を強調したい状況です。そういった言葉の選び方にも注意して、台風解説を日々確認いただけたらと思います。
放送中は、さまざまなルールや尺を守らなければならないという緊張感があり、放送が終わるとドッと疲労感が襲ってきます。10年近く気象キャスターとして、放送に携わっていますが、私自身どちらかというと緊張しやすい性格というのもあり、オンエア中はいまだに心拍数も高くなります。そのためか、放送終わりは例えると、運動不足の中で久しぶりに100メートルを全速力で走った後のような疲労感となります。
(気象予報士)