初めてインドを旅して帰国すると、すぐにまた行きたくなるか、二度と行きたくなくなるか、両極端のタイプに分かれる――とよくいわれる。
なにゆえに? そのわけを目下滞在しているインドで、我(わ)が体験から解き明かしてみたい。
コルカタの空港に降り立ち、空港タクシーを発券カウンターでチャーターする。
空港の建物を出て、スーツケースを持って所定の場所で待っていると、ほどなく予約したタクシーが滑りこんでくる。自分でスーツケースを後部座席に積みこもうとすると、横合いからいきなり引ったくる男性がいる。いったいなんなんだ?
むさ苦しいオヤジが、私の荷物を車内に押しこむ。そして涼しい顔で手を差し出してくるではないか。
自分は空港の正規のポーターだから、規定のチップをくれという。こっちから頼んだわけでもないのに、たったの2メートルしか運んでいないのに……。
チップだけがポーターとしての収入だそうで、稼ぐためには強引にならざるを得ないらしい。それにしてもやれやれである。
空港タクシーの発券カウンターで手数料を払った時に係員にいわれていた。
「降車する時、ドライバーに定額の350ルピーを支払ってください」
小銭を持っていなかったので、500ルピー紙幣を差し出す。ところが相手は、お釣りがないという。だったら近くで両替してくればいいでしょうと提案すると――。
「そのくらいのお釣り、チップとしてくれてもいいんじゃないの」
そういって譲ろうとしない。常識的に考えて、350ルピーの運賃に対して150ルピーのチップは多すぎるだろう。
先ほどのポーターといい、眼前のドライバーといい、お願いではなく、チップを堂々と権利として要求しているのだ。我々(われわれ)にはちょっと考えにくい発想だろう。が、国民性ともいうべき、この押しの強さに、その後インドのいたるところで出くわすことになる。
そういった体験をくり返すと、もう二度とインドになんか行きたくない、と思う人がたくさん出てくる。だが逆に――。
インド人のあくの強さになじめる向きは、感情にしても欲望にしても包み隠そうとしないインドの魅力にはまってしまうようだ。
★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。