「川の参詣道」として世界遺産に登録されている熊野川を運航する川舟下りで、昨年春に東京から和歌山県新宮市に移住して修業を重ねていた渡邉史崇さん(31)が「船頭」としてデビューした。高齢化する船頭の技術継承を目指し、同市が募集した地域おこし協力隊の隊員。「安全第一で運航しながら川舟の魅力を伝えたい」と意気込んでいる。
和歌山と三重の県境などを流れる熊野川は、田辺市本宮町にある熊野本宮大社の旧社地・大斎原(おおゆのはら)そばから新宮市の熊野速玉大社近くまでが世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に登録されている。
一般財団法人熊野川町ふれあい公社は、同市熊野川町にある道の駅から速玉大社近くまでの熊野川をコースとした川舟下りを運営しており、昨季は約5500人が乗船した。うち約7割が外国人と国際的にも人気だが、3人いる船頭は全員70代と高齢化。技術継承が課題となっていた。
渡邉さんは昨年4月下旬、働いていた東京から新宮に地域おこし協力隊の隊員として着任。小型船舶の操縦士免許を取得し、先輩船頭の津呂進さん(74)に師事しながら、さおや櫓(ろ)などを使って川舟を操る方法を学んだ。この春からは、津呂さんに付き添ってもらい、実際に乗客を乗せて川を下っていた。
船頭デビューでは、ふれあい公社の下阪殖保代表理事や新宮市の向井雅男副市長らを川舟に乗せた。下阪代表理事は「上手に操船してくれており、安心した。若い船頭がもっと来てくれ、事業がずっと続けられればうれしい」と期待した。
渡邉さんは「普段よりもかなり緊張した。船頭は命を預かる仕事なので、今後はこれまで以上に緊張感を持ちながら、お客さまに楽しんでいただけるよう頑張りたい」と話していた。(紀伊民報)
乗客を乗せて出発する渡邉史崇さん=5月31日、和歌山県新宮市熊野川町で