久々に銅メダルを首に掛けた男子66キロ級の阿部一の視線は、真っすぐ前を向いていた。
ジェボフとの準々決勝で、内股を掛けにいったところを透かされて一本負け。同級の個人戦では2019年以来の敗戦だった。「悔しさはあるけど、もっともっと強くなれると正直に思う」。5度目の優勝を逃したことよりも、収穫を実感できたことが何よりだった。
最後に黒星を喫した相手、丸山が2月に現役を引退。「丸山選手との激闘があって、勝って負けてを繰り返して、どうしたら成長できるだろうとやってきた」。東京、パリの両五輪の代表争いでしのぎを削ってきたライバルの存在は大きかった。
3連覇を目指す3年後のロサンゼルス五輪へ、自身を高めてくれる「何か」を欲しているところで訪れた6年ぶりの1敗。これは王者にとって最大の原動力となる。「この世界選手権で優勝するよりも負けた方が、ロスに向けて恐ろしく強くなれると思う。ロスで勝つために、この負けを無駄にしない」。ブダペストの地で力強く言い放った。