「貧しいから、たくさん子供がほしい?」

  • 内山安雄の取材ノート, 特集
  • 2024年2月23日
「貧しいから、たくさん子供がほしい?」

  タイ東北部の農村に滞在しているのだが、こっちにきて感じるのは、どの家に行ってもとにかく子供が多いということだ。3人、4人なんて少ないほうで、5人、6人はごく当たり前、もっとたくさんいる家も少しも珍しくない。田舎に行けば行くほど、その傾向が強いようだ。

   これは何もタイにかぎったことではない。インドシナ諸国、フィリピン、インドネシア、ネパール、インド、パキスタンなど、アジアの国々に共通している。あまり言葉が良くないかもしれないが、いわゆる貧乏人の子だくさんというやつだ。

   これが今も昔も変わらないアジアの家族制度のスタンダードらしい。

   我々(われわれ)はともすればこう考えてしまう。

  「ただでさえ貧しいというのに、どうしてそう次々と子供をもうけてしまうのだろう? そんなことをしていたら、ますます貧乏になるだけではないか」

   実は私も以前はそう思っていた。だが、逆に貧しいからこそ、意図的にたくさんの子供をもうけようとするのだという。どうしてなのか?

   発展途上の国々に共通していえるのは、まだまだ社会福祉が、特に老人福祉がいちじるしく立ち遅れていることだ。よって庶民の誰もが、高齢になったときの不安をかかえて生きている。その不安を解消してくれるのが子供たちなのだ。

   昨今の日本はさておき、アジアでは今なお子供たちは、何よりも家族の幸せを、特に親孝行を最優先に考える。もしも親に苦境を訴えられたら、子供たちは自分のことを後回しにして、何はともあれ親を助けようとする。それが美風であり、常識とされる。

   つまり、子供が多ければ多いほど、老後になって子供や孫たちに囲まれ、憂いなき安定した暮らしが期待できるというわけだ。

   子供たちが小さいうちは、子だくさんだと、とにかく生活が苦しく、食うや食わずということになるだろう。だが、それさえ耐えしのげば、やがて年老いたとき、たくさんいる子供たちがわれ先にと親の面倒を見てくれ、黙っていても、お金も持ってきてくれる。それこそがアジア標準であり、老後の幸せのためには子だくさんが必要不可欠なのだ。

   貧しいのに、どうして赤ん坊を次々と産み続けるのか、という長年の疑問が最近になってようやく解消されたのであります、はい。

   ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

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