父と共になりわいとした造林業を愛し、木のぬくもりを愛し、静かに創作意欲を燃やす人が白老町竹浦にいる。村上博之さん(79)。「あくまで趣味」として手掛ける木工芸の繊細で魂のこもった作品群が、かつて林業で栄えた竹浦地区で暮らす人たちの郷愁を誘う。
村上さんは同町出身。中学卒業後、父の長之烝(ちょうのじょう)さん(2001年、89歳で他界)が町内で営んでいた造林会社に就職した。竹浦や飛生地区の山林からナラの丸太などを切り出し、大昭和製紙(当時)や王子製紙などにパルプ資材として納入したほか、まきなどにして販売したという。切り出した丸太を集積場まで運ぶ「馬車追い」は人馬一体の重労働だが、父は米国製のウインチ付き6輪駆動車やクレーンを導入した。この時重機を乗りこなし、修理なども手掛けた経験が現在の木工技術に生かされている。「ボルト1本の位置まで覚えている」と笑顔を見せる。
木工芸は13年、70歳で会社を定年退職し、父の13回忌を迎えたことを機に始めた。若い日の記憶を頼りに図面を引き、丸のこやのみ、かんななどの工具を駆使して独学で作品を仕上げている。作風は部品に鉄材やゴムを使用することで独特のリアリティーを醸しているのが特徴。
父親が愛用した馬そりのミニチュアは鎖や革もあしらい、歴史的な資料の域に達している。重機の数々は小さな部品一つ一つにもこだわり、1台の完成に2カ月はかかるという。
毎年11月、竹浦と町コミュニティセンターで開かれる文化祭に新作を出品しており、「自身の人生そのもの」を表現した作品は、歩んできた造林への愛がこもっている。出来栄えの精巧さに、昔を知る年配者の中には村上さんの作品目当てに来場する人もいるほど。「懐かしい」「昔の林業を思い出す」と好評だ。
一方、個展の開催や技術の継承には「興味がない」という。ゆくゆくは作品を撮影した写真で作品集にまとめたい考えだ。
制作はあくまで頭と手を動かす「脳のトレーニング」と無邪気に笑う。現在はブルドーザーを制作中で「秋までには完成させたい」と胸を弾ませる。妻の優子さん(77)は「夫の母も押し絵のベテラン。芸術家の血筋を受け継いだのかも」と話している。