アイヌ民族にルーツを持ち、白老町など道内各地で活動している豊川容子さん(44)=札幌市豊平区在住=が30日公開の記録映画「チロンヌプカムイ イオマンテ(キタキツネの霊送り)」のナレーターを務めた。自身がボーカルを務める音楽ユニット「nin cup(ニンチュプ=新月になる前の細くなった月)」は音楽を担当し、豊川さんは「多くの方に見てもらえたら」と話している。
映画は1986年、屈斜路湖近くの美幌峠で75年ぶりに行われた儀式の記録映像を再編集したもの。アイヌ文化の伝承者で日高・沙流川地方出身の故日川善次郎氏(1911年~90年、撮影当時75歳)が祈りの言葉を間違えれば神の怒りを買うとされる繊細な祭祀(さいし)をつかさどった。105分。
ニンチュプはユカラ(叙事詩)やウポポ(歌)を取り入れて活動しており、映画でナレーターと音楽を担当したことについて豊川さんは「ナレーターを務められて光栄。重責を受けて悩みながらも務めを果たせた」と笑顔を見せた。
監督は60年代から国内を含むアジア各国の民族文化を撮影し続けている北村皆雄さんで、「民俗的記録は古いほど原型が残っている。時間の奥に眠っていたアイヌの世界観を現在に引き出した」と語る。アイヌ語の和訳は人気漫画「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修者である中川裕さん(千葉大学名誉教授)が手掛けた。
アイヌは動物を大切に育て、イオマンテ(儀礼)を行う。祈りをささげ、歌や踊りで喜ばせ、魂を神の国へ送るという。豊川さんと交流のある白老町在住のアイヌ伝統語り部、古布絵作家の宇梶静江さん(89)は上映に際し「私たちはすべての生き物と共に生きている。伝統にのっとり祭祀を執り行うアイヌを誇りに思う。日川さんの言葉は、生き物すべてに畏敬の念を持っていたことの表れ。アイヌの生活、風習、儀式に関するこの映像は永久に残すべき遺産だ」とコメントを寄せた。
映画はポレポレ東中野(東京都中野区)ほか、全国で順次公開の予定。