安平町追分旭の農家、小路恵子さん(50)がエゾシカの皮を使ったレザークラフト作りに励んでいる。自宅の畑で駆除した地元のエゾシカの皮を革に加工してもらい、かわいらしいサコッシュやポーチなど身近なものに様変わりさせる。「手に取った時に、『あ、シカなんだ』と実情に思いをはせてくれたら」と語る。
美唄市出身で、結婚を機に町内に移住。家族で有機栽培の畑で小麦や大豆、カボチャ、ゴボウなどを育てている。ただ、場所が山際であることからエゾシカに畑を荒らされることも少なくなく、収穫物を食べ尽くされたこともあった。これを受けて夫の健男さん(58)が20年ほど前に猟師の免許を取得した。
「有害駆除という響きは一方的な都合のみが優先され、違和感を持つ人もいると思う。でも、農業の現場でシカの被害があるのは事実で、生活がある」。駆除するのは自家消費できる分に限定し、畑に侵入するエゾシカ年間十数頭にしており、ジビエや堆肥として循環させてきた。
その過程で、シカの皮を趣味のレザークラフトに再利用できないか、を模索。2020年の夏に初めて獣皮を革にして産地に返すプロジェクトを展開する東京の事業団体に送り、加工してもらった。獣の皮が丈夫な革となり、専用のミシンなどで手を掛けることでサコッシュや巾着、ポーチに様変わり。
自ら「うちの鹿プロジェクト」と銘打ち、昨年からインターネットに掲載しているほか、今月12日に地元であったマルシェイベントでも町民らに初めてお披露目した。革の柔らかさやしなやかさ、それでいて丈夫にできており、色も鮮やか。「革の柔らかさ、持ち味を生かせる形を今も考えている」と小路さんは言う。
「有害駆除の背景、山際の暮らしを守るために生まれた製品。シカとのつながりが想像できるきっかけになれば」と話している。