北海道アイヌ協会(大川勝理事長)の第55回北海道アイヌ伝統工芸展で、白老町の彫刻師山田祐治さん(67)の木彫作品が最優秀賞(道知事賞)=一般工芸品部門=を獲得した。ヒグマを手の形だけで表現した斬新なデザインや、卓越した木彫りの技が高く評価された。アイヌ伝統の工芸技術を受け継ぐ山田さんは「芸術性を高めた作品の制作にさらに挑みたい」と意気込む。
今回の伝統工芸展には、各地区アイヌ協会の29人が出品。民具や着物などを復元した伝統工芸品部門に28点、現代的作風の一般工芸品部門に42点を寄せた。今月3日、北海道博物館や道立工業試験場の職員、北海道アイヌ協会の優秀工芸師らが審査に当たり、入賞作品を決定。一般工芸品部門で山田さんの作品が1位の最優秀賞に輝いた。
「キムンカムイ 恵みに感謝」と名付けた作品は2点セット。キムンカムイ(山の神)と称されるヒグマが両手でサケをつかむ場面と、伝統儀式カムイノミの作法にならい、手のひらを上に向けて神に恵みを感謝する様子をイメージして作り上げた。大きさは2点とも高さ約23センチ、幅約20センチ、厚さ約10センチ。エンジュを材料に1月、温めていた構想を一気に形にした。自然への感謝と敬いを忘れてはいけない―。そうしたメッセージを込めた。
白老で生まれ育った山田さんは高校卒業後、北海道ウタリ協会白老支部長(現白老アイヌ協会)を長く務め、彫刻師としても名をはせた父国雄さん(故人)に師事。木彫り技術を身に付け、ヒグマやシマフクロウなどアイヌゆかりの動物をモチーフにした作品を数多く制作した。町高砂町のやまだ民芸社を営みながら今も精力的に作り続け、新千歳空港ターミナルビルの民芸品店や民族共生象徴空間(ウポポイ)のミュージアムショップなどで販売している。
今回の受賞に「高い評価を受けたのはうれしい限り。これからの創作活動の励みになる」と話し、「伝統を大切にしながらもアート的な作品を発信していきたい」と意欲を見せる。
白老町ではかつて、木彫り熊など工芸品作りが盛んに行われ、職人も数多くいたという。しかし、現在も彫刻師として活躍しているのは、数人しかいない。地域で育まれた木彫文化の存続が危ぶまれている中で、山田さんは「個人の活動だけでは限界がある。担い手の育成、販路拡大など白老の文化を残すための町の施策が必要ではないか」とも話した。
今回の伝統工芸展・伝統工芸品部門では、「ポンサタニプ(編み袋)」を出品した浦河町の堀悦子さん(68)が最優秀賞を受賞した。