埼玉県から白老町に移住したアイヌ文化伝承者の宇梶静江さん(88)は、支援者と共に「一般社団法人アイヌ力(ぢから)」を近く立ち上げる。アイヌ民族の知恵や文化を学んだり、体験したりする機会を提供する団体。住居のそばにあるいろり付きの施設を拠点に来年春から始める予定だ。
今月10日、倉庫を改造し、儀式に必要ないろりを設けた施設に宇梶さんや支援者が集まり、伝統儀式のカムイノミを執り行った。札幌市のアイヌ文化伝承者石井ポンペさん(76)が祭司を務め、活動の船出を神に伝えた。宇梶さんは「アイヌ(人間)、ウタリ(仲間)が生きやすい世の中になるよう、カムイ(神)お助け下さい」と祈った。
この日に集まった支援者は、北海道大学名誉教授の小野有五さん(73)、萱野茂二風谷アイヌ資料館長(平取町)の萱野志朗さん(63)ら10人余り。儀式を終えた後、今後の活動の方向性について話し合った。
宇梶さんらは「アイヌ力」と名付けた活動母体の一般社団法人を申請中で、近く発足させる。宇梶さんが代表理事を務め、自然と共生したアイヌ民族の知恵や精神を学び、伝統の生活文化を体験してもらう活動を来年4月か5月にも始める予定という。
浦河町出身の宇梶さんは、関東地方のアイヌ民族4団体でつくる連絡会の代表を務め、伝統文化の普及活動に携わりながらアイヌ民族への差別や偏見と闘い、権利回復を訴える運動に奔走した。詩の創作をはじめ、アイヌの叙事詩の世界を表現した古布絵作品も次々に発表し、国内外から高い評価を受けている。
11月下旬に移り住んだ白老町の活動拠点について宇梶さんは「アイヌや和人などさまざまな人が集い、アイヌの精神性を役立ててもらう取り組みをしていきたい」と言う。国の同化政策で言語や文化、生活基盤を失った同胞へ常に心を寄せ、「みんなで自由に語り合いながら心の苦しみを解きほぐし、文化の復興、民族の誇りを取り戻すために力を結集する場にもしたい」と熱く語った。