アイヌ民族の文化伝承者で詩人、古布絵(こふえ)作家として知られる宇梶静江さん(88)が今月下旬、埼玉県から白老町に移住した。住居のそばにある倉庫にいろりを設け、伝統文化の伝承や語り合いの場とする施設の整備も始めており、「白老にアイヌの精神や知恵を学ぶ拠点をつくりたい」と意気込んでいる。
移り住んだ木造平屋建ての民家は、敷地が約660平方メートルと広く、倉庫として使われていたブロック造りの建物もある。この民家を拠点に今後、さまざまな人たちにアイヌの精神や生活文化に触れてもらう活動に臨む。
宇梶さんは浦河町出身。23歳で上京し、関東地方のアイヌ民族4団体でつくるアイヌ・ウタリ連絡会代表を務めた。伝統文化の普及活動に携わりながら、アイヌ民族への差別や偏見と闘う運動に奔走した。詩の創作をはじめ、アイヌの叙事詩の世界を表現した古布絵作品も次々に発表し、国内外から高い評価を受けている。長男の宇梶剛士さんは個性派俳優として活躍し、白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)PRアンバサダーも務める。
白老アイヌ協会の山丸和幸理事長など人とのつながりの中で白老町への移住を決めたという宇梶さんは「アイヌ文化が根付くこのまちで、自分の経験も生かした活動に取り組みたい」と言う。国の同化政策で伝統の暮らしを失ったアイヌ民族へ常に心を寄せ、「自由に語り合い、心の苦しみを解きほぐす場づくりに挑みたい」と熱意を語る。
倉庫を改造し、伝統の儀式もできるいろりを備えたスペースでは、アイヌ語を学ぶ若者などが集い、民族の言葉で対話してもらうことも考えており、「アイヌとして生きる自信、誇りを抱いてもらえるようになれば」と話す。
いずれは町内に広い土地を確保し、食材の植物採取などアイヌの伝統の営みを再生したいとし、「町内外のいろんな人たちの協力、支援を頂きながら頑張っていきたい」と語った。