環境省が「日本の重要湿地」に選定している白老町のヨコスト湿原について、町は2022年度、保全に向けた自然環境調査を実施する方針だ。湿原の乾燥化や外来植物の侵入、ごみの不法投棄などで貴重な自然が脅かされている中、湿原の現状を詳しく把握し、保全の対策につなげる。
沼地や草原、林など多彩な自然環境を形成し、絶滅危惧種を含め多様な動植物が息づくヨコスト湿原をめぐっては、周辺地域の土地利用の影響や流入河川の水量低下などで乾燥化が進んでいる。また、急速に分布を広げたオオアワダチソウなど外来植物が、湿原の生態系を支える在来植物を駆逐する問題も顕在化。ごみの不法投棄や、釣り人らによる海岸でのたき火も環境を脅かしている。
中でも湿原の生命線とも言える河川の状況については、ポロト湖奥地を源にヨコストへ流入するウツナイ川の流れが悪化。乾燥化に拍車を掛ける恐れがあり、早期対策の必要性に迫られている。
こうした状況を踏まえて町は、貴重な湿原を守るため、保全対策のベースとなる自然環境調査を22年度に実施する方針を固めた。専門機関に依頼して湿原全体の現況、植物や鳥類など生物の生息状況を調査。町が10年度に行った同様の調査の結果と比較し、20年余りの間にどのように変化したか実態をつかむ。
さらに23年度には調査結果に基づき、白老町環境町民会議(中野嘉陽会長)など関係団体と共にハード、ソフト両面で保全の手法を探る。ハード面ではウツナイ川の流量低下を改善させる方策がポイントになる。
環境調査に関しては、17日の町議会定例会一般質問で森哲也氏(共産)の質問を受け、町生活環境課の担当者が実施の方向性を説明。戸田安彦町長は「白老に残る豊かな自然を次代に引き継ぎたい」と述べた。
一方、外来種の抜き取りなど保全活動に取り組む環境町民会議は、町による調査に先立って今年度、独自に植生や鳥類について調べる。また、湿原保護の町民意識を高めるため、今年度の事業計画に町民見学会も初めて組み込み、今月26日と来年2月に開く予定だ。
ヨコスト湿原を保全する上で町は、環境悪化への対応以外の問題にも目を向けている。湿原を横切る国道36号の東側エリアの多くは町有地と国有地で占められているが、西側エリアの多くは民有地。民間の土地利用が湿原消滅につながる可能性も否定できないため、町は「土地所有者に保全への協力を呼び掛けたい」としている。
■ヨコスト湿原
白老町日の出町と社台にまたがる低層湿原で面積33ヘクタール。自然海岸とその背後地に砂丘や沼地、河川、草原、林など複雑な自然環境を形成。それぞれの環境に適応する動植物も多種多様で、2010年の自然環境調査では植物463種、野鳥64種、昆虫209種が確認され、絶滅危惧種も少なくない。16年に環境省が「日本の重要湿地」に選定。北海道の自然環境保全指針では「優れた自然地域」とされている。