苫小牧市内の建設会社で働くベトナム人のタイ・ディン・ビンさん(25)=ウトナイ北在住=は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う渡航制限で、技能実習期間が終わっても1年近く帰国できずにいる。ベトナムが外交・公用を除き感染地域からの入国を厳しく制限しているためだ。市内には外国人843人(5月末現在)が暮らし、うちベトナム人は約300人に上る。「家族に会いたい」と繰り返し語るビンさんの表情には、収束が見えないコロナ禍で国境を越えられない寂しさがにじんだ。
ビンさんは2017年7月、技能実習生として来日。20年7月まで、帯広市で建設業に従事した。3年の実習を終えたら帰国するつもりだったビンさんを襲ったのはコロナ禍の出入国制限。同じ職場で半年間、実習期間を延長したものの、今年1月になってもベトナムへの飛行機は軒並み運休。帰国できるめどは立たなかった。2月から、在留期間が最大5年の新しい在留資格「特定技能1号」に切り替え、現在の会社で働くため苫小牧に転居した。
「感染防止のために昨年から出掛けることが難しくなり、週末に市内のベトナム人同士で集まる機会もなくなった」と話すビンさん。家から出るのは仕事と必要最低限の買い物のみで、職場の人としか顔を合わせない。建設現場で働くビンさんは、一定額の給与が保障されているが、残業がなくなった分、手取りが減ったという。
19年2月に一時帰国して以来、2年以上母国の地を踏めていない。ビデオ通話で家族とやりとりを続けているものの、「おうち時間」が増えたことで郷愁に駆られる機会も増えた。「ベトナムに帰ってお母さんの作るご飯が食べたい」と語る声には悲壮感が漂う。
ベトナムではワクチンがまだ市民に普及していない。都市封鎖する地域や隔離施設を軍隊が管理するため、「医療従事者と軍隊が優先接種を受けている」という。ビンさんの故郷・ゲアン省では外出制限により買いだめをする人が多く、スーパーから商品がなくなる非常事態。「ベトナム型」と呼ばれる新たな変異株も登場し「ウイルスの流行がさらに長期化する」と、母国の感染状況に不安も覚える。
それでも、どうしても帰りたい理由がある。帰国して「日本語の先生になりたい」からだ。技能実習生は来日前に4カ月間日本語を学ぶといい、「日本へ行く技能実習生たちに日本語を教えたい」と真っすぐな瞳で語る。
もう一つ、「ベトナムに帰って結婚したい」。市内に住む同い年のベトナム人女性と交際中で、帰国後に結婚する約束をした。毎年必要な就労ビザの更新時期は2人とも12月。「その時に帰国できたら」と望みをつなぎながら、両国の感染の収束を強く願っている。