「苫小牧以外からの来店はお控え下さい」―。苫小牧市汐見町のマルトマ食堂(三浦未店長)が新型コロナウイルスの緊急事態宣言の延長に伴い、インターネット交流サイト(SNS)で市外客に異例の来店自粛を求めている。平日でも長蛇の列ができる人気店だけに、誹謗(ひぼう)中傷されることもたびたびで、やむにやまれず「要請」に踏み切った。ところが集客力の高さは変わらず、三浦店長(42)は「どうすればいいのか、心が折れそうな時もある」と悩みを吐露する。
宣言延長初日の1日、同店前は「コロナ前」と変わらぬ光景が広がった。午前5時の開店から利用客がひっきりなしに訪れ、昼食時間帯は常時20人前後の列ができた。客同士の間隔を空けるため、店内に入れる人数を従来より3割減の約20人にとどめていることもあり、行列は午後2時の閉店まで途切れることはなかった。利用客は平日200人以上、土曜日はさらに100人は多く、コロナ禍でも客足は衰え知らずだ。
一方で、風当たりも強く、三浦店長もじかに中傷を受けることがある。「きょうも札幌ナンバーの車が来ている。どうなっているのか」と繰り返し電話をかけられたり、「コロナが広がったら、どう責任を取るつもりだ」とSNSに書き込まれたり。同店がSNS上オークションなど趣向を凝らした企画で繁盛するたびに批判が集中し、「そんな声を1回聞くだけで、精神的にきつい」と三浦店長は肩を落とす。
同店は卸売市場で魚介類を大量に買い付けることで取引価格を抑え、薄利多売で低価格メニューを実現しながら話題を集めてきた。「人気店なんだから、少しぐらい休んでもいいだろ」と嫌みを言われることもあるが、家族4人、パート8人で切り盛りし、仕入れた魚をさばき切ってなんぼの営業形態。「自分たち、従業員たちの生活がかかっている。簡単には休めない」と説明する。
1日からSNSの宣伝や特価販売も自粛し、「苫小牧以外からの来店は宣言が終わるまで控えて下さい」と書き込んだ。三浦店長は「苫小牧の活性化につなげたい、多くの人に喜んでもらいたい、と思ってやることも今は裏目に出る」とコロナ禍の現状を嘆き、「営業しながらこのようなメッセージを出すことは本当に複雑で申し訳ない思い。宣言終了後に還元できれば」と話している。