異能のプレーヤーによる70年代再解釈 野口五郎 アルバム「GOROes by myself 3」

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  • 2025年6月4日
野口五郎

 野口五郎 1971年デビューの大ベテラン歌手、野口五郎が、歌のみならずほとんどすべての楽器を自ら演奏するセルフカバー・アルバム第3作。「シティ・ポップ」をテーマとした前作に対し、今作「GOROes by myself 3」は、NHK交響楽団のメンバーによるストリングスアンサンブルとの共演。70年代の歌謡曲に特有の、深刻で濃密な愛の世界を劇的に歌い上げる。衰えを感じさせぬ歌もさることながら、ギタープレーが実に生き生きとしており、本人が楽しんでいることがはっきりと伝わる。

 野口五郎は、熱心なギターコレクターで卓越したプレーヤーでもある。70年代半ばからいち早くアメリカでのアルバム録音を継続的に行い、当時流行のフュージョンやAORを大々的に取り入れた作品群は、近年「シティ・ポップ」の文脈でも再発見されている。アメリカ録音の経験に基づいて本格的な自宅スタジオを建設するなど、現在の音楽制作のあり方を先取りする存在でもあった。

 2022年には桑田佳祐が呼び掛けた、同学年のミュージシャンによる楽曲「時代遅れのRock ’n ’Roll Band」に佐野元春、Char、世良公則と並んで参加。「芸能界」では何年も先輩である野口が、彼らと同世代であることが改めて広く知られた。

 今年2月に発売された「野口五郎自伝 僕は何者」(リットーミュージック)でも、アメリカ録音のエピソードをはじめ、筒美京平らの作曲家やスタジオミュージシャンとの交流や、楽器や録音への強いこだわりが極めて詳細に書かれており、彼の多面的な個性がさらに表に出た。

 異能のマルチプレーヤーによる70年代歌謡曲の再解釈とも言える本企画、さらに続いてほしい。

 (大衆音楽研究者・輪島裕介)

(avex io)

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