出版文化 最大の国語辞典、30年ぶり改訂/「用例主義」で55万語収録へ

  • LB, 文芸1
  • 2025年6月10日
日本国語大辞典第2版を手に「用例を通して現代まで連なる日本語の変遷をたどる。難解な辞典ではなく、読んで楽しい」と語す小学館辞書編集室編集長の大野美和さん=東京都千代田区の小学館本社
日本国語大辞典第2版を手に「用例を通して現代まで連なる日本語の変遷をたどる。難解な辞典ではなく、読んで楽しい」と語す小学館辞書編集室編集長の大野美和さん=東京都千代田区の小学館本社

 約50万語を収める最大の国語辞典「日本国語大辞典(日国、にっこく)」の第3版刊行に向けた改訂が始まった。編集に当たる有識者が数百人に上る巨大プロジェクトで、版元の小学館は2032年にデジタル版の公開を目指す。

 25万~30万語収録の「広辞苑」(岩波書店)や「大辞林」(三省堂)は「中型」国語辞典に分類され、日国は国内唯一の「大型」国語辞典となる。その第2版(00~02年刊)は、13巻と別巻の14冊で構成される。収録語数の多さに加え、言葉の意味や使用例を典拠と共に解説する「用例主義」に特徴がある。古事記から昭和文学に至る約3万作から例を採り、その数は100万点に達する。

 例えば「真実」の項では、900年ごろに菅原道真が編さんした漢詩文集「菅家文草」など複数の文献の使用例を挙げて語義を解説。1100年近い来歴を持つ言葉と分かる。

 小学館辞書編集室編集長の大野美和さんは「さかのぼれる限り最古の用例を収め、言葉の変遷を記録する。一項目ごとに論文並みの情報が凝縮されている」と胸を張る。

 第2版刊行後も作業は続き、既に20万点の用例が蓄積されている。このほか各地でデジタル公開された文献や最新の研究を反映し、新しく3万~5万語を追加する。原本が失われさまざまな版が流通する古典も多く、典拠にふさわしいかどうかの確認にも力を注ぐ。

 「日国は日本の宝」と断言するのは、第3版編集委員の一人で、方言研究が専門の日高水穂関西大教授。方言を巡る環境はこの数十年で様変わりしており、「消えそうな方言ほど研究が進むなど濃淡もある。日本語と日本文化の総体を記録する役割が日国にはあり、収録のバランスと精度に気を付けたい」と話す。

 基礎語、漢語、方言、アクセント、語誌などの専門部会ごとに編集作業が本格化する。前回の改訂から30年。デジタル技術の活用を見込む一方、当時編集に関わった社員が現役で残っていない難しさもある。大野さんは「どれだけ時間があっても足りないが、他に改訂をやれるところはない。版元としてのプライドと責務が一番」と強調する。

 日本国語大辞典第2版を手に「用例を通して現代まで連なる日本語の変遷をたどる。難解な辞典ではなく、読んで楽しい」と語す小学館辞書編集室編集長の大野美和さん=東京都千代田区の小学館本社

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