研ぎ澄まされた鮮烈な歌詞 GRAPEVINE アルバム「あのみちから遠くはなれて」

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  • 2025年6月11日
GRAPEVINE

 GRAPEVINE デビュー29年目を迎えた3人組ロックバンドのGRAPEVINEは、今、充実の時期を迎えている。テレビ出演やタイアップなど華やかな場所でスポットライトを浴びるようなことは少ない。しかし作品の鮮烈な魅力で新たな層に支持を広げている。

 とりわけここ数年で顕著なのは「ねずみ浄土」や「雀の子」など独自の文体で諧謔(かいぎゃく)やロマンチシズムを表現する田中和将(ボーカル/ギター)の歌詞の世界観だ。ライブバンドとしての卓越した実力と詩人としての研ぎ澄まされた視線を併せ持つ稀有(けう)なバンドとしてキャリアを重ねている。

 「あのみちから遠くはなれて」(ビクター)は通算19作目となるニューアルバム。やはり耳を引くのはその言葉のセンスだ。「あざす」という歌い出しから始まる「天使ちゃん」ではトーキングブルースのスタイルでブルースハープを吹き鳴らし、映画「ベルリン・天使の詩(うた)」をモチーフに昭和、平成、令和の時代を貫くやるせない心情をあけすけな言葉でつづる。「ドスとF」では「余計な声はマスキング スポーツを流しておけ ポジティブなコンテンツだけ パワープレイ パワープレイ」と痛烈な社会風刺を表現する。

 他にも「おまえらうざい」と繰り返す「my love,my guys」や「おまえは何持ってんだ そこでジャンプしてみろよ」と始まる「カラヴィンカ」など、アイロニーや挑発をにじませた刺激的な歌詞の楽曲が印象的だ。

 言葉だけでなくサウンドも痛快だ。センチメンタルなバラードからテンポアップして祭りばやしのようなセッションになだれ込む「猫行灯(あんどん)」や、骨太なリフを聴かせるロックナンバー「どあほう」などライブの盛り上がりが目に浮かぶような熱量の高いナンバーが並ぶ。

 円熟のミュージシャンシップと高い文学性を感じる一枚だ。

 (音楽ジャーナリスト・柴那典)

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