ヒグマの生態に詳しい佐藤教授=昨年8月、苫小牧市内で開催されたヒグマについての勉強会 苫小牧市東部の住宅地に、突如姿を現したヒグマ。クマの生態に詳しい酪農学園大学(江別市)の佐藤喜和教授(54)=野生動物生態学=に、出没の背景や今後必要な対策などを聞いた。
■たまたま迷い込んだ?
市によると、今回、拓勇東町の公園で見つかったヒグマの足跡は幅約15センチ。佐藤教授は「14センチを超える雌はいないとされ、雄と考えられる。大人の個体はそんなに人前に出てこないので大きくてもまだ若い4、5歳ぐらいだろう」と推測する。
6月は繁殖期で、雄の成獣なら雌を求めて歩き回る時期。なぜ住宅地に出没したのかは不明だが「今の時期、街の中にクマの食べ物はなく、雌のクマもいない。選んで入ったというよりはたまたま迷い込んだのでは」と話す。
その上で「ヒグマの生息地とされる市内北部の森から川沿いに続く緑地を歩いていて、少し脇に出たら住宅地だったという可能性がある」と指摘。「生息地から街中につながるような川があれば、他の場所でもこうした迷い込み方は発生してもおかしくはない」と警戒を呼び掛ける。
■課題洗い出す訓練を
今回、市は「特別警戒態勢」と銘打ち、地元の猟友会や苫小牧署や学校、道路管理の市の部署と連携し、従来の危機管理マニュアルよりも踏み込んだ対応を取った。
「出没に備え、事前に役割分担を明確にし緊急時の連絡体制もはっきりさせておくことは重要」と強調。「今回の件をケーススタディーとし、時系列で実際に行動して課題を洗い出すような訓練をしてはどうか。今ならより実感を持って臨めるだろう」と提案する。
市内の他地区の住宅地にも出没し得ることから「どこで出ても慌てずに対応できる体制を」と助言。特に保育園、幼稚園、小学校、中学校は「通報後の対処方法、登下校をどうするのかも考えてほしい」と語る。
■草刈りも有効
住宅地への進入ルートとして、想定される川沿いの対策にも言及。「100%防ぐのは無理でも少しでも入りにくくするため草を刈ったり、少し木を伐採したり、物理的な柵を設けたりと地域の特徴を考慮した防御策が大事。町内会、自治会単位での草刈りも有効」と説く。森に餌が少なくなる7~9月は、全道的に農業被害が増える。「家庭菜園とかに、クマがたまたま入っておいしいものに出合うのは良くないので、きちんと管理を。家庭ごみが夜から出し放しになっているのは危ない」と注意喚起する。
■もし遭遇したら
クマに出合ったら▽慌てない▽騒がない▽走らない―ことが肝心という。
「出没情報を耳にしたら住宅街であっても『まさかあり得ない』と考えず、まずは信じて家から出ないこと。外にいる場合は速やかに家や車の中に避難してほしい」とアドバイス。「本当の街中だと大体のクマはパニックになっており、目立たないよう隠れることが大事。人身被害を出さないようにすることが最優先」と説く。想定外の出没に対応できるよう、正しく恐れることが求められている。
※この企画は報道部の河村俊之、鈴木十麦太、富樫陸が担当しました。