「ホープ(希望)」と名付けられた巨大隕石(いんせき)の地球衝突による人類滅亡。ただし、それは100年後のこと。そんな世界で生きる人々を描く連作短編集だ。
登場人物たちの人生は〝人類滅亡〟を知らされたことから大なり小なり影響を受けていく。親友を自殺で失った金井希望、人類滅亡に絶望した男の手で家族を殺された永瀬北斗、自棄になり暴力事件を起こし離婚を言い渡された男…などなど。そこにはいつも「どうせ世界は滅びるんだから」という諦めの言葉があった。
しかし、そんな彼らには改めて自分の人生を見直す時間がある。なぜなら、隕石衝突はまだずっと先だから。そう、「100年後の人類滅亡」の設定によって「人類の歴史」と「登場人物たちの人生」とは切り離されている。かくして彼らはそれぞれの生きる意味を見いだしていくのである。
彼らのエピソードを読み進めるうち、読み手は人類の歴史が続こうが続くまいが「人生には終わりがある」という厳然たる事実を想起させられるだろう。その事実を前にする時、彼らの生きる様は新たな重みを持って私たちに迫ってくる。彼らの人生をなぞることは、彼らと共に、自分の人生を問い直す作業である。人類の滅亡を通して人生を問う著者に、作中の人々と同じように自分も答えを示さなければならないのだ。その意味で、重い内容であると言えよう。
ただそれは、孤独な作業ではないことも著者は示してくれる。本作の登場人物たちは緩やかにつながっている。それはまるで「一人ではないよ」という著者の優しいささやきのようでもある。
奇抜で巧妙な状況設定の下、確かな個性を持ついとおしい人物たちの人生と共に、読み手は思い掛けず自らの人生を振り返り、未来でも過去でもない「いま」の人生の美しさや価値に目を向けさせられるだろう。人類を滅亡させる隕石に付けられた「ホープ(希望)」の名のごとき、願いと希望に満ちた作品集である。
(碇信一郎・公認会計士)
(小学館・1870円)