「これ以上、皆さまにご心配、ご迷惑をかけるわけにはいかない」―。11月5日、5期18年余りにわたって苫小牧の市政運営を担ってきた岩倉博文氏(74)が、体調不良を理由に任期途中で市長を辞職した。
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岩倉氏は昨年11月に出張先の韓国で倒れ、今年2月に公務復帰を果たしたが、その後も体調不良で入退院を繰り返し、市民や市議から「大丈夫か」といった不安の声が後を絶たなかった。市長職務代理者は2度設置し、期間は計139日間に及んだ。
8月28日から再度公務に戻ったが、車いす姿で往事の力強さはなかった。岩倉氏は自身の体力の回復が見込めないことを鑑み、苦渋の決断に至った。
岩倉氏は「今でも古里苫小牧のために全身全霊で取り組みたい気持ちはある」と無念さをのぞかせつつ、10月下旬の記者会見では「就任当時から課題、難題をみんなで一つ一つクリアし、今の苫小牧をつくってきた。生意気な言い方だけど、達成感はある」と胸を張った。
最後の登庁となった11月5日には、市職員や市議をはじめ、歴代の副市長、市民らも駆け付け、岩倉氏は「皆さまと議論できたことは私にとっての財産」と感謝。自らが築き上げた苫小牧の未来を託して、市役所を後にした。
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岩倉氏の退職から4日後の同9日、与党系の議員として5期18年弱にわたって岩倉氏を支えた元市議会議員の金澤俊氏(50)が岩倉氏の後継指名を受け、市長選への出馬を表明した。
金澤氏は「(岩倉氏が)任期いっぱいまでやり遂げたかった思いをしっかりと受け継ぎ、苫小牧の未来を担わせていただきたい」とアピール。元市職員の田村一也氏(49)との一騎打ちを制し、12月8日に「金澤市政」が誕生した。
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師走の市長選は、事実上の与野党一騎打ちとなったが、当日有権者数14万247人に対し、投票者数は5万4282人。投票率は38・70%で、前回(2022年6月)を4・71ポイント上回ったが、過去2番目の低さにとどまった。
苫小牧の新たなリーダーを決める選挙としては寂しい数字で、金澤氏は「40%を切っているのは問題だ」と危機感を示し、田村氏も「自分の力不足」と投票率の低迷を敗因の一つに挙げた。
10月の衆院選も市内の投票率は49・48%と過去最低を更新した。市長選は期日前投票が過去最高で推移したが、当日の投票率は伸びを欠いた。有権者、とりわけ市民の政治離れは深刻さを増している。
市選挙管理委員会は「要因として季節的な影響もあったのか、有権者の足が投票所に向かなかった」と残念がる。引き続き投票率の向上に向けて「啓発活動をコツコツと積み重ねていかなければ」と話す。
金澤新市長は「(公約の)七つのビジョンで掲げる『市民総活躍』で、市民の皆さんをどんどん巻き込み、まちづくりに市民の意見が取り入れられている実感ができる取り組みをしていきたい」と意欲。金澤氏の手腕が注目される。
(石川鉄也)
(終わり)