6月4日、JR苫小牧駅前で廃虚化が進む旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」を巡って、苫小牧市と土地の一部を所有する不動産業・大東開発(苫小牧市若草町、三浦勇人社長)が、駅前再開発を協力して進めることで合意した。約10年間にわたって議論に折り合いがつかず、平行線をたどった「エガオ問題」が、解決に向かって一気に動きだした。
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翌5日に記者会見を開いた岩倉博文前市長は「まずは駅前再整備に向けて一歩前進した。合意できて、ほっとしている」と話した。同社の三浦社長も苫小牧民報の取材に対し「いろいろな思いがあった中で総合的に判断した。今後ともお互いに横の関係を築きながら、粛々と進めていきたい」と述べた。
合意は、同社がエガオをはじめ駅南口の再整備区域内に所有する土地と、市が同区域内に用意する土地を交換する内容。そのため市は旧バスターミナルと東側の用地を、不動産関連業エイチ・アール・ネット(東京)が持つ二層式駐車場と交換した上、市が取得した駐車場の南東角地と、大東が旧エガオに所有する全ての土地を交換する。7月12日付で、市は両者と覚書を締結した。
一方、旧エガオの土地や建物は、大東開発を除く28地権者が市に無償譲渡した経緯がある。市議会では整合性や不公平感を問う声が上がり、議員が「一番取ってはいけない方法」「なぜ大東開発を優遇する必要があったのか」などと指摘する場面もあった。
岩倉前市長は「本来あるべきではないのかもしれない」と前置きした上、「任期中に道筋だけは付けていきたいとの思いで基本合意に至った」と説明。木村淳副市長も「今回の判断が市民はもとより、元地権者にとって最善の選択だったと思っていただけるように、着実に進めていく」と理解を求めた。
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駅前再開発に弾みをつけるように、機運を醸成するソフト面の取り組みが進みつつある。市民の声を取り入れる「パブリックミーティング」に地元高校生が参加し、若い力のチャレンジを期待する声も。中心市街地の将来的なまちづくり推進に向け、公・民・学の連携組織「アーバンデザインセンター(UDC)苫小牧」も10月31日付で発足。まちなか交流センター・ココトマ(表町)を拠点に、駅周辺ビジョンの実現に向けた事業や戦略、まちづくり活動をコーディネートしていく体制を整えた。
市は「苫小牧駅周辺ビジョンに基づく基本構想」の趣旨を踏まえ、協働して基本計画を策定するパートナー事業者を来年にも選定し、2026年度の施設解体を目指して準備を進める考え。岩倉前市長から駅前再開発のバトンを託された金澤俊市長は「これ以上(廃虚の)あの状態にしておくわけにはいかない。計画を遅らせないように進めていく」と語気を強める。
(石川鉄也)