大人に代わって家族の世話や介護、家事などを担う子ども「ヤングケアラー」を支える上での基本理念を定めた、苫小牧市ヤングケアラー支援条例が4月1日、施行された。本人の思いを大切にしつつも、過度な負担を負っている子どもを手助けするため、市の責務や関係機関の役割を明文化した。スタート1年目はシンポジウムの開催や啓発動画の作成、当事者の居場所づくりなど、条例に込められた思いを広める啓発事業が活発に展開された。
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ヤングケアラーに特化した条例は道内初、国内でも3例目と珍しい。全15条の条項で構成し、当事者を社会で孤立させないように見守り、そっと手を差し伸べられる温かいまちの実現を目指す。
市は今年度、条例を生かしたまちづくりを進めるため、高齢者介護や障害者福祉、教職員など、当事者や家族と接する可能性がある人を対象に、当事者の実態や支援時に大切な心構えなどを伝える研修会を実施した。10月には、高校生の時にヤングケアラーだったという菊地幸夫弁護士を講師に招き、一般市民向けのシンポジウムを開催。市民約160人が家族ケアを担う子どもの心境を学んだ。
当事者と同世代の中高生に向けた啓発にも着手し、ヤングケアラーに関する解説や相談先などを記した市独自のリーフレットを中学生に配布。中高生や20代の社会人の協力で啓発動画3本を作り、ユーチューブ上で公開した。
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市社会福祉協議会も5月、当事者の声をすくい上げる場として、「こども・若者相談所kamakura~かまくら」を始動。市内の児童センターやこども食堂に出向き、社協職員が子どもたちと交流しながら実態把握を行ってきた。平均で10人程度の子どもを集めており、市社協の千寺丸洋総合支援室長は「家庭や学校生活などに対する子どもたちのさまざまな声を聞くことができている」と話すが、「直接的な実態把握はとても難しい」とも説明する。
一方、保育園からの情報提供がきっかけとなり、日常的にきょうだいの世話を担う10代の学生に対し、市社協を中心にサポートした事例もあったといい、「日常的に子どもと接している保育園や幼稚園、学校との連携なくして、支援は実現しない。今以上に各機関が連携し、サポートに当たる意識をまち全体で高める必要がある」と強調する。
市は2025年も引き続き、条例の理念を広める事業に力を注ぐ考え。市こども相談課の齋藤健巳課長は「少子化や核家族化により、子どもが家族ケアを担うケースは今後さらに増えるはず」と指摘。「『ヤングケアラーはすべて是正すべき、良くない状態』という誤解を生まないように気を付けながら、さまざまな立場の人にこのテーマを知ってもらえるような取り組みを積み上げていきたい」と力を込める。(姉歯百合子)