新型コロナウイルスの影響で、夏の甲子園と予選の地方大会が戦後初めて中止になった。室蘭支部で各チームを率いる指導者や、かつてここから甲子園出場を果たした関係者は一様に落胆している。目標とした高校野球の聖地を夢見て日々白球を追い掛けてきた生徒たちの心情をおもんぱかり、代替大会実施などの救済を強く求めた。
「生徒たちが甲子園を目標に頑張ってきた姿を一番近くで見てきた。残念ではあるけど、今の情勢を考えればやむを得ない判断」と話すのは苫小牧東の前川護監督(42)。特に同校モットーの文武両道で成長してきた選手4人、マネジャー1人の3年生のためにも大会開催を望む思いと、生徒たちの安全を確保し切れない現状にジレンマを抱えていた。
地方大会も中止が決まり、「チーム内の紅白戦や他校との連携なども含めて、3年生が気持ちの区切りをつけられる試合の場を模索したい」。また、生徒たちを懸命に支えてきた保護者の思いもくみ、「無観客にしないで、ウイルス感染防止の対策をしながら子どもたちの勇姿を何とか見られるようにもできれば」と語った。
道内屈指の右腕、北嶋洸太(3年)を擁し、今夏は13年ぶりの聖地返り咲きを目指していた駒大苫小牧の佐々木孝介監督(33)は「うちに憧れて道外から来てくれた生徒も多い。やりきれない気持ち」と心境を表した。2004年夏の第86回大会を制し、深紅の大優勝旗を本道に初めて持ち帰ったナイン一員の元主将は肩を落とす。
チームは休校措置に伴い4月中旬から活動停止中だが、甲子園中止決定後、寮生活している3年生数人に「希望を失わずに頑張ろう」などと声を掛けたという。救済大会の実施を切実に願い、「3年生を中心に前を向かせられるようしっかりフォローしていきたい」との考えだ。
1956年春の選抜大会に苫小牧工業選手として出場し、指導者となった72年夏の第54回大会には監督として同校チームを導き、本道勢4年ぶりの夏1勝も経験している金子満夫さん(81)は「本当に残念。選手と一緒に泣いてやりたい」と悔しさを口にする。
4月下旬に全国高校総合体育大会、全国中学校体育大会が相次いで中止。「高校野球だけ、夏の甲子園だけというのは難しいと思っていた」。現役選手や指導者、保護者らの無念は人一倍理解している。「簡単に言えることではないが、ピンチはチャンス。乗り越えてほしい」と高校生に呼び掛ける。
札幌日大野球部部長の折霜忠紀さん(62)は「残念や悔しいを通り越して、何とも言えない思い」と嘆く。75年夏の第57回大会で北海道日大(白老町)の主将として聖地に立ち、北海道桜丘、鵡川で監督を務めた室蘭支部ゆかりの高校野球指導者は「特に3年生にとって夏の大会は、卒業後の進路にも関わる重要な舞台」と言う。
自身も甲子園出場を果たし、憧れだった社会人野球・都市対抗優勝チームの大昭和製紙北海道入りした経緯がある。「大会を全くできずに終わってしまうのは、あまりにもかわいそうだ。せめて地区大会でもやってもらえれば、選手たちの気持ちも変わってくるのでは」と試合機会の創出に望みを託した。