▶5 生き物たちの交差点 苫小牧の森と原野 道を譲り合う役割

  • 特集, 記者ノート2019
  • 2019年12月20日

  昨秋、環境担当記者となり、ウトナイ湖や勇払原野、北大苫小牧研究林を訪れ、現地を散策する機会が増えた。環境保全や学術研究に関わる人たちとの交流を通して、湖がたくさんの渡り鳥にとっての休息地、中継地であると知った。さらには湖周辺がヒグマやエゾシカなどの野生動物の通り道であることなども見えてきた。

   また、今春は沼ノ端地区に暮らす住民らの編集による120年間の沿革史発行も取材した。植苗、勇払などを含む周辺地域はアイヌの時代から交通の物流の要衝であったことが分かり、不思議な感動を覚えた。

   苫小牧郷土文化研究会などは11月に、苫小牧市美沢で「美々舟着場跡」の説明板を設置した。太平洋と日本海を結ぶ内陸の交通路が存在していたことを市内外の人たちに知ってもらうためだ。

   この地域は、人間のみならず、たくさんの野生生物たちにとっての交差点で在り続けている。

   絶滅危惧種タンチョウにとっても、いずれ通り道になるかもしれない。生息地分散を目指す国や道の動きもあってか道東から道央に生息域を広げる傾向を見せている。昨年12月は1952年の調査開始以来初めて空知管内長沼町で、むかわ町生まれの標識付き成鳥1羽の越冬を確認。今年1月にはウトナイ湖や弁天沼周辺で初となる第2回越冬分布調査を実施するなどの動きがあった。これからが楽しみだ。

   地図で見る北海道は、東側に頭を向け、南北に胸びれを大きく広げたエイのように見える。腹びれと胸びれの境目にある道央地域は札幌から苫小牧にかけて、大きくくびれた地形になっている。くびれの北側では都市化が進み、野生動物が通る隙間はない。

   くびれの南側に当たる苫小牧市については北部や東部に森や原野を残すことで、人間と生き物たちが道を譲り合う役割を果たしているように見えた。

 (半澤孝平)

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