「中心市街地はなんとかならないの」―。統一地方選挙の出口調査やカジノを含む統合型リゾート施設(IR)関連取材などで市民の声を集めていると、そんな言葉を複数人からぶつけられた。JR苫小牧駅南口前の旧エガオビルが2014年8月に閉鎖し、空きビル化して5年余りが過ぎた。苫小牧市は建物と土地の複雑だった権利集約に動いているが、最後の地権者1人との話し合いが難航し、今年に入り訴訟に発展した。
市はビルの解体を条件に民間業者に無償譲渡し、再開発を図る青写真を描くが、係争中を理由にそれ以上の発信に慎重な姿勢を取っている。
このため、市民から行政が何もしていないように映り、冒頭のような発言につながるのだろうと思う。市内在住の60代女性は苫小牧出身の人気ミュージシャンのファンの集いが市内で開催された時、「苫小牧駅での待ち合わせだったんだけど、何も無いねと言われ、ごめんなさいと謝りました」と教えてくれた。
駅前の現状に歯がゆさを覚えて動く市民もいる。8月下旬、エガオビルの写真が苫小牧駅自由通路にずらりと張られていた。無料の音楽野外ライブ「活性の火’19」のポスターだ。活性の火はエガオが閉店した年に始まり、年々成長し、今年は過去最多の約2万9000人が来場した。
実行委員長の杉村原生さん(41)はポスターの狙いについて「苫小牧の課題を、みんなに考えてほしかった」と明かす。ライブ当日もこのデザインのTシャツをスタッフが着て活動した。「来賓として招いた苫小牧市長もステージであいさつする時、Tシャツを着てくれた。デザインに気づいていたかは分からないが…」と振り返る杉村さん。「反応は特になかったが、できることを続けたい」と、来年の活性の火開催を今月、発表した。「まちの顔」とされる中心市街地。市民からも笑顔を奪う、まちの顔なら、寂しい話だ。
(河村俊之)