主演のケイト・ウィンスレット(左)とエレン・クラス監督 映画「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」=公開中=は、トップモデルから写真家に転身し、カメラを手に戦地へ赴いた実在の女性の半生に迫る。エレン・クラス監督は「彼女はさまざまな慣習を覆していった人。女性として自分のロールモデルのように思っていた」と語る。
1938年。米国出身で、写真家として欧州でも活動するリー(ケイト・ウィンスレット)は南フランスでの休暇中、夫になる男性と出会い、英国へ移住するが、やがて欧州に戦渦が広がる。
製作総指揮も兼ねたウィンスレットと親交があり、メガホンを託されたクラス監督。映画でこの時期に焦点を当てたのは「30年代が今に似ているから。ドイツで権威主義の政権が誕生しても周辺国の人たちは気にせず楽しんでいる」。
リーは女性として異例の従軍写真家になり、銃弾の飛び交うフランスの市街へ。パリ解放の後、ドイツに入り、連合軍に解放されたダッハウなど二つの強制収容所で、当時は明らかにされていなかったホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の実態を目の当たりにする。
脚本化に際し、リーの遺品などを遺族の協力を得て調査。撮影された写真の一覧を見て「彼女が写真家としてどこへ行き、何を見て、考えていたのかを感じることができた」と話す。重傷の兵士、対独協力者として丸刈りにされる女性、放棄されたミュンヘンのヒトラー邸の浴室、そして、強制収容所の遺体の山…。
「リーは所属の英国版『ヴォーグ』編集部に『信じてください』と言って写真を送った。真実のニュースとは何なのかが問われている今、自分が見たものを記録し、伝える行動は重要だと思う」
虐げられた人々への深い共感を持ち、声なき声を伝えようとしたリーが、自身の心の傷を明かすシーンに心を揺さぶられる。「彼女の決意の理由を見せたかった。戦争経験者や虐待の被害者は黙ってしまう。リー自身が沈黙を破ったシーンは大事な転換点になった」