「でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男」=27日公開=は福田ますみのルポルタージュを原作に、三池崇史監督が綾野剛主演で描いた人間ドラマ。児童の親から悪質ないじめを働いていると抗議された教師が、社会的に追い詰められていく衝撃作である。
小学校教師の薮下(綾野)は、教え子の母親、氷室律子(柴咲コウ)から息子への体罰で告発される。薮下には身に覚えがなかったが、学校側は事を穏便に済ますため、彼に体罰を認めて謝罪するように言う。この事実を嗅ぎつけた週刊誌の記者、鳴海(亀梨和也)が実名報道に踏み切ったことで、薮下は誹謗(ひぼう)中傷を浴びてしまう。
「死に方、教えてやろうか」と、教え子をどう喝したとされる記事が掲載され、薮下は世間から〝殺人教師〟のレッテルを貼られる。事実は違うと主張しても、一度謝罪したことで彼は不利な立場に追い込まれ、学校側もかばってはくれない。孤立無援の状態に立たされた薮下が、身の潔白を証明するために起こした民事訴訟裁判の模様を、作品は映し出していく。
法廷ですべては「でっちあげ」だと主張する薮下だが、そこに至るまで彼は周りの状況に戸惑い、翻弄(ほんろう)される。強固な意志を持てない、ぶれた男の弱さや焦り、怒りといったものを、綾野剛が繊細に表現している。対して彼を告発する律子は、自分を信じて疑わない、強いメンタルの持ち主。モンスターペアレントの域を超えて、その発言や行動に狂気を感じさせる女性を、柴咲コウが圧倒的な存在感で演じている。
世間やマスコミを味方に付けた律子と、小林薫演じる老獪(ろうかい)な弁護士だけを頼りに法廷で闘う薮下。世論が個人をのみ込んでいく恐ろしさを、あくまでエンターテインメントとして描いた、三池監督の手腕が光る力作だ。
(映画ライター・金澤誠)
「でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男」で教師の藪下を演じる綾野剛(右)