日本証券業協会が、認知症などで判断能力が低下した顧客の資産運用を継続できるようにしようと「家族サポート証券口座」の仕組みを新たに設けた。健康な間に信頼できる家族を指定しておくと、発症後も本人の事前希望に応じて代理人として証券取引を行える。日証協は将来に備えた選択肢の一つとして広めたい考えだ。
一般的に認知症などで判断能力が失われると証券口座は凍結される。新制度の背景には、投資を続けたいとの顧客の意向に加え、老後資金が尽きるまでの期間である資産寿命の延伸や、相続といった課題に日証協として対応する狙いがある。日証協の森田敏夫会長は「汎用(はんよう)性のある仕組みになったので、普及に向け会員証券会社に説明したい」と話す。
▽家族が金融商品買い付けも
家族サポート証券口座では、健康な間に管理・運用方針を顧客と代理人、証券会社の間で整理し、顧客と代理人の間で公正証書による契約を締結する。認知症などの発症前は自身で運用を継続し、発症後は代理人の家族が、証券口座にある資産を売却したり、リスク性の高い商品を除く株式や投資信託などを買い付けたりできる。
現状、判断能力の低下に際して使える資産管理の制度では、信託法に基づく家族信託、民法に基づく法定後見などがある。ただ、家族信託は幅広い資産を運用できる一方、本人が元気でも締結されると自身で投資ができなくなる。法定後見は発症後に利用する制度で、裁判所への申し立てなど手続き面のハードルも高い。
金融商品に関する提言を行う団体「フォスター・フォーラム(良質な金融商品を育てる会)」の永沢裕美子世話人は「長い人生を想定した資産管理の必要性が増す中、家族サポート証券口座は利用者本位に近づいた制度」と評価する。
北陸を地盤とする今村証券(金沢市)は、7月にも日証協の枠組みに基づく家族サポート証券口座のサービス提供を始める。家族が近くに住む顧客が多く、「信頼できる家族を代理人に指定する」との要件を満たしやすいとみる。小原久乃内部管理部長は「顧客口座の乱用防止に十分なけん制を利かせることが必要だが、しっかり管理することで顧客資産の有効活用につながる」と話した。
▽営業員の認知症研修検討
顧客の高齢化を受け、証券各社はさまざまな対応策を模索している。SMBC日興証券は昨年7月、部署横断の「高齢顧客対応・高度化ワーキンググループ」を設置、現場の抱える課題を洗い出している。すでに家族信託や、顧客が親族らをあらかじめ取引の代理人として指定する「有事代理人制度」を取り入れているが、対応を拡充する。
具体的には、ホームページに高齢顧客とその家族へのサービスを網羅的に把握できるページを設けるほか、認知症について学ぶ営業員向け研修も検討。お客さま本位推進室の加藤夏来室長は「投資アドバイスだけでなく、顧客の状況に応じた支援について声掛けしていきたい」と語った。
SMBC日興証券の高齢顧客向けサービス例(同社提供)