連載の最後に、病気や加齢で口の力が衰え、リハビリによる回復が難しいときの食事の方法をお伝えします。
無理に硬いものを食べないといけないと考え、頑張って食べると、かえって食事量が減ってしまったり栄養のバランスが崩れてしまったりします。食べ物が気道に入る誤嚥(ごえん)や、喉に詰まる窒息が起きれば、即刻命にかかわります。
足腰が衰えたとき、転ばないようゆっくり歩いたり、必要なら車いすを使ったりすることは、通常の対応です。車いすの利用を残念に思う方もいるでしょうが、行きたいところに行けるようになり、移動の楽しさを取り戻せます。無理に歩くことにこだわる必要はないのです。
同様に、軟らかくておいしく、栄養価の高い食事を食べることで、誤嚥や窒息のリスクを避けられます。食事量が減ると低栄養になり、舌をはじめとした筋力が衰えてしまいますが、これも防げます。
食事の時間が30分を超えるようになったら要注意。現在の食事が、口や喉の機能を上回ってきている証拠で、食べ物の工夫が必要です。
今は日本中の名だたる食品メーカーが、おいしく栄養価の高い介護食を市販しています。ぜひ試してください。食事の一部を、栄養豊富な飲料に置き換えるのも検討してみましょう。
好きな食べ物があれば「一点豪華主義」を勧めます。好きな料理はそのままの形で食べ、他は軟らかいもので安全にするという考え方です。好きなもの、おいしいものを食べるときは、不思議と口がよく動くという事実もあります。
人生に彩りを与えてくれるはずの食事が、苦行となったり命懸けであったりしてはいけません。あくまでも「食べることを楽しむ」にこだわりたいところです。
(菊谷武・日本歯科大口腔リハビリテーション多摩クリニック院長、イラストはカモシタハヤト)
-終わり-軟らかくおいしい食事を楽しむ