「食 の 本」/稲田俊輔著/現代の課題も浮き彫りに

  • LB, undefined, 文芸1
  • 2025年6月17日

 著者は南インド料理店「エリックサウス」の総料理長兼文筆家。食に関する25冊を紹介する本書は、飲食店経営者と作家の複眼で描かれている。

 直木賞作家の千早茜の人気エッセーシリーズ「わるい食べもの」については、作家の目で書く。例えば、牛乳や生卵・半熟卵は「命の気配が強すぎる」から苦手、と説明する「繊細で想像力豊かな理由」に感嘆するのだ。

 一方、映画化で話題を集めた当事者によるノンフィクション「面白南極料理人」(西村淳著)には、経営者の目。1年の調査期間中に南極ドーム基地へ持ち込んだ食材だけで料理する書き手をうらやむ。料理の独自性をアピールする必要がなく、作る人と食べる人の「純粋で理想的な関係性」が描かれているからだ。そもそも過酷な環境に身を置いている南極料理人は、料理人がしばしば遭遇する苦労話で「盛る」必要もない。自分も自宅では「プロの料理人としての葛藤や難儀さから完全に解放され」「心底邪念なくおいしいものを作ることだけを」目指している。

 食文化を語る本を扱う際は、社会をも読み解く。池波正太郎のエッセー集「むかしの味」の場合、書かれた1980年代は次々に外国の食文化を採り入れグルメブームに沸いていた。そんな時代に失われるかもしれない味を、池波は身をていして守ろうとした。それは前進する日本に盤石の信頼を置いていたから、とも指摘する。頑固おやじを演じるには、許容してくれる社会が必要なのだ。

 今はどうか。畑中三応子著「ファッションフード、あります。」を紹介する章では、定番アイテムばかりがはやる昨今の風潮に疑問を呈す。その気持ちは、食のトレンドを論じる仕事をする私にも分かる。モノが出尽くした感に加え、激し過ぎる変化を生きる現代の日本人には、斬新な食を受け入れる余裕がなくなっているのかもしれない。稀有(けう)な書き手が関心ある書籍を集めた「読書感想文」は、現代の課題もくっきりと浮かび上がらせている。

 (阿古真理・作家)

 (集英社新書・1067円)

こんな記事も読まれています

  • テストフリー広告

       苫小牧民報社創刊75周年記念講演会 入場無料  【講師】アルピニスト 野口 健氏  【演題】富士山から日本を変える  ~山から学んだ環境問題~  日時・会場・申込・問合せブロック  2025年(令和7年)8月9日(土)

    • 2025年7月18日PR
    テストフリー広告
  • テストフリー広告

       <!DOCTYPE html>  <html lang=”ja”>  <head>  <meta charset=”UTF-8″

    • 2025年7月18日PR
  • TEST
    • 2025年7月15日
  • TEST
    • 2025年6月26日
  • 新 着 図 書

       アリーチェと魔法の書(長谷川まりる)絶体絶命ゲーム 16(藤ダリオ)どろぼうジャンボリ(阿部結)ふしぎ駄菓子屋銭天堂 3(廣嶋玲子)ふみきりペンギン(おくはらゆめ)金色の切手とオードリーの秘密(オン

    • 2025年6月21日undefined, 組版, 苫3社
ニュースカレンダー

紙面ビューアー