「紅鬼物語」のキービジュアル 大音量のロックサウンドに、ど派手なアクション―。鮮烈な演劇作品で絶大な人気を誇る「劇団☆新感線」が、今年で旗揚げ45周年を迎えた。唯一無二の存在感と躍進の背景には、客席からの視線を意識した見せ方や、音へのこだわりがある。
1980年、大阪芸術大舞台芸術学科の学生らで結成。つかこうへい作品を上演する「コピー劇団」として出発したが、84年からオリジナルを手掛け、「阿修羅城の瞳」「髑髏(どくろ)城の七人」などを送り出す。88年以降は大阪から東京へ進出し、公演規模とファン層を拡大していった。
「無音の場面も『シーン』という音が鳴っているような、意味がある静寂じゃないと。人間、生きていて音がない瞬間はないと思う」。そう語るのは主宰の演出家いのうえひでのり。
客席からの「画角」も常に意識。「映画で言うとどこにカメラを置くか。前から見て一番きれいな、納得いく絵にしたい」
一度見たら忘れられない、「劇画・マンガ的」とも表現される世界観。自身は「せっかちなのか、なにがしかで埋めないと嫌な性格」といい、作品に取り組む上で「『間延びしていない』、『埋まっている』という感覚で作っている」と明かす。「そこに(座付き作家)中島かずき君の熱い話が入ってきて。だから癖のある芝居になっている」
周年企画の演目は、主に、ドラマ性の高い時代活劇「いのうえ歌舞伎」シリーズの新作2作。その第1弾「紅鬼(あかおに)物語」が上演中。鬼が住む平安の世が舞台のファンタジーだ。「今までの作品でも、征服者や被差別者のメタファーとして鬼が登場したが、民話や伝承の存在としてがっつり描くのは初めて。人ならざる存在の怖さを出したい」と説明する。
第2弾は9月から、古田新太、橋本じゅん、高田聖子ら劇団員が勢ぞろいの「爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK」を予定する。
「周年は気にしない。いつまで続けられるかの勝負なので、毎年毎年が記念公演」といのうえ。観客に与える影響が大きい「生の芝居」を手掛ける立場として、「特にコロナ禍以降は、希望を残して終わる作品を心掛けている」と話す。「別世界にいる気持ちになって、一瞬でも浮世の憂さを忘れてほしい」―。観客を思う、エンターテインメントへのひたむきな情熱を言葉ににじませた。
劇団☆新感線主宰の演出家、いのうえひでのり=東京都目黒区