SHINGO★西成 大阪市西成区の長屋で生まれ育ち、現在も西成を拠点に活動するラッパー、SHINGO★西成。3年ぶりの新作「ドラム缶の歌」(昭和レコード)は、30曲の候補から厳選した13曲入り。
1曲目「山王三丁目の夕日」は、ラップではなく歌で始まる。「誰にモノ言うてけつかんねん⁈」という歌詞と、1970年代のレゲエ風でもあり和田アキ子のような日本製R&B風でもある節回しに、いきなり耳と心をわしづかみにされた。
自身が「べしゃり芸」と形容するだけあって、口語的な大阪言葉のイントネーションを最大限に生かしたラップは、浪花節や漫才や音頭といった話芸に通じる。「居場所」でのわらべ歌風のパートや「あのコは」のバースとコーラスの対比は絶妙だ。一方で、韻の踏み方や言葉の選び方など、日本語ラップの蓄積が見事に血肉化している。大阪で根付いているダンスホール・レゲエの影響も随所で見られ、表現の幅を広げている。
音楽を通じて西成を「レペゼン(代表)」するだけでなく、困窮者支援の炊き出しなどの活動を続けている。「ドラム缶の歌」のミュージックビデオは、地域の中心である「三角公園」で厳寒期に暖を取るためにドラム缶のストーブを燃やす姿を彼の息子が撮影したものだ。
初期の代表曲「ILL西成BLUES」(2006年)では、「本場アメリカさながらのリアルなゲットー」として生まれ育った西成を描くことでヒップホップ界の注目を集めた。そこから約20年を経て、そこに住み続ける彼の喜怒哀楽を通じて浮かび上がる本作での西成の町は、より立体的かつ具体的で、なにより美しい。
(大衆音楽研究者・輪島裕介)