季節を味わう

  • 土曜の窓, 特集
  • 2024年9月28日
季節を味わう

  お彼岸を過ぎたら急に涼しくなってきた。カボチャの収穫はまだ続くが稲刈りは終わり、農家の人たちもホッとしているようだ。

   診察室で「ようやくひと段落ですね」と患者さんに声を掛けると、こんな答えが返ってきた。

   「おかげさまで。でもまだ”秋じまい”があるので、あれこれ動いてます」

   秋じまい。聞き慣れない言葉だ。慌てて辞書を引くと、「その秋の収穫がすべて終了したことに伴うお祝い」とある。ただ、その患者さんは、稲わらの処理や地ならし、農具の片付けなど、今年の後始末や来年の準備を指して「秋じまい」と言ったようだった。もちろん、その後に身内や手伝ってくれた人が集まり、ごちそうを囲んでねぎらい合う会を開くのかもしれない。

   正しい意味はともかく、秋じまいとはなんて季節感のある良い言葉なんだろう、と思った。私自身、大学の教員をしていた時は春学期や秋学期、夏休みなど、季節の名前の付いた単語を使っていたが、今はそれもなくなった。診療所の中は一年中、だいたい同じ温度や明るさが保たれており、季節を感じるのは通勤のわずかな時間だけだ。自然豊かな北海道にいるというのに、逆に季節を忘れながら日々を過ごしているかもしれない。

   でも、診察室には農業や林業の従事者、趣味で花畑をやっている人などがやって来て、こうして季節感のある話をしてくれる。特に穂別はこの時期、マツタケが採れるので、「いよいよ始まったよ」「今年はけっこう出てるね」などとほほ笑みながら話してくれる人も多く、私も「大きなマツタケを見つけても、慌てて足を滑らせないでくださいね」などとこの時期ならではの注意をする。

   本当はもう少し、私自身も季節感を味わいながら暮らしたい。そんな話をしたら、看護師さんが「朝の散歩ですよ」と勧めてくれた。「毎日、同じ時間に外を歩けば、いやでも季節の移り変わりを味わえますよ」

   最近の精神医学の研究では、からだのリズムを整え、気持ちを明るくしてくれる一番のクスリは日光だということが分かってきている。私も精神科医時代は、患者さんに朝の散歩を勧めてきた。よし、これから頑張って朝、少し散歩をしよう。農家の皆さんは「秋じまい」だが、私は「秋はじめ」だ。なんだか楽しくなってきた。

  (むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)

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