もう10年近く前のことになる。東京で高校の友人たちとの酒飲み会があり、その席で若々しく爽やかなKが披露したのは認知症の初期症状の体験談だった。自転車に乗って駅へ着いたものの「なぜここへ来たのか用件を思い出せなくなってさァ」。そんな話を明るく笑って披露し合い「まァお互いに気付けるべや」。
老いれば機能は衰える。会社にも、忙しい時間にやって来て1、2秒間無言の後、ずるそうな笑いを浮かべ「何の用事でここへ来たと思う?」と失念の帳消しを目指す同僚がいる。それでいい。明るく交われば超越できる困難は増える。
厚労省の推計では高齢の認知症患者は2022年に約443万人。40年には記憶力低下など軽度認知障害を含め、患者数は1200万人になる可能性がある。国は、認知症患者や家族が他の人々と支え合い地域で暮らすことを重点目標に掲げた「新しい認知症観」を提唱し、自治体にも推進計画の策定を求めている。
高齢の悩みはいろいろ。今、自分がこだわっているのは時計の時刻の読み。数字だけの表示に慣れて、針の文字盤の読みが苦手になっているのに気付いた。未明の薄暗い部屋で「今は何時?」と柱の時計をにらみ続けている。まだ元気に働いているというKも誘おうかな。(水)