ウトナイ湖には春から夏にかけてさまざまな植物が花を咲かせる。早春は林床のナニワズの黄色の花が褐色の森に春の訪れを知らせ、新緑の季節にはスミレの仲間やフデリンドウ、ユキザサなどかれんな花が一気に咲く。初夏から夏にかけては一年で最も花が多く、湖面には無数のコウホネの黄色い花が点在し、ホザキシモツケが湖岸を桃色に染める。そして、エゾリンドウが咲き終わる晩夏に花の季節は幕を閉じる。
植物は、どこにでも自由に生えているわけではない。水中には水生植物、湖岸にはヨシ原、大雨が降ると冠水するような場所には湿性草原、内陸には森林が成立し、それぞれの環境を好む様々な植物がすみ分けている。特に湿性草原は、ヒオウギアヤメやノハナショウブ、サワギキョウなど湿原を代表する植物が多い。ウトナイ湖の多様な環境こそが多様な植物を育んでいる。
1970年ごろ、洪水対策のためウトナイ湖から流れ出る勇払川の河川改修が行われた結果、ウトナイ湖の水位は70センチ以上も低下した。この影響で周辺の乾燥化が進み、湿性草原はハンノキ林やホザキシモツケ林に置き換わって減少した。近年、水位の低下を防ぐ保全策が講じられ一定の成果が出ているが、ホザキシモツケ林の拡大は続いている。
本展では、ウトナイ湖で見られる花の色や形を残した乾燥標本を、約70種類展示している。花の美しさを楽しんでもらうとともに、環境の変化にも目を向けていただきたい。
(苫小牧市美術博物館学芸員 江崎逸郎)