菅義偉前首相が宣言した2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出ゼロ)実現に向け、苫小牧市内の動きが加速している。経済産業省の委託を受けた国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の各事業が次々と始動し、地球温暖化対策を推進するための最先端の実証試験も計画される中、官民挙げて脱炭素化への取り組みを活発化させる。
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19年に経済産業省が策定したカーボンリサイクル技術ロードマップ。それまで不要品だった二酸化炭素(CO2)を資源と捉え、分離・回収し、化学品や燃料などに再利用し、排出削減につなげる。苫小牧では12年度から、CO2を分離、回収、貯留する技術CCSの実証試験を展開。官民の連携で「安全に実用化できる技術」と立証し、物流やエネルギー産業の拠点でもある苫小牧の可能性の高さが脚光を浴びた。
今年度はCCSに有効利用の「U」を加えたCCUSの拠点化事業がスタート。CCSに引き続き日本CCS調査(JCCS)などが受託し、世界初の試みという液化CO2の長距離船舶輸送を計画している。
このほかJCCSや出光興産など6社は、CO2を航空燃料に再利用しようと検討。北海道電力は苫東厚真発電所で、CCUSの社会実装調査に取り組む。石油資源開発とデロイトトーマツコンサルティング合同会社も、官民で議論する検討会議を発足させた。
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市も8月、50年までにCO2の実質排出量ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言した。国が100カ所で重点的に施策を展開する「脱炭素先行地域」の指定も目指しており、岩倉博文市長は「市民と地域、事業者が一体となって挑戦する」と意気込む。
14日には「苫小牧CCUS・カーボンリサイクル促進協議会」と「苫小牧水素エネルギープロジェクト会議」を統合し、「苫小牧CCUS・ゼロカーボン推進協議会」に改編する。全市一丸となって、市民へのアピールも強化する。
一方、避けては通れないのが産業構造の変換だ。
苫小牧港周辺には、化石燃料を大量に使う苫東厚真発電所や本道唯一の製油所・出光興産北海道製油所があり、市内のCO2年間排出量は500万トン規模と推計される。トヨタ自動車北海道をはじめ林立する自動車部品製造業も、脱炭素で部品の少ないEV(電気自動車)生産への切り替えが進めば、雇用の維持や確保に直結する。脱炭素にイノベーション(技術革新)は不可欠だが、新たな挑戦は生き残りへの模索も伴う。
苫小牧商工会議所の末松仁事務局長は「脱炭素のいろんな取り組みが始まれば、地元企業も世界水準の新たな技術に触れる機会になる」と期待する一方で、「新しい技術に対応しないと生き残れない時代。企業に寄り添った活動が一層必要になる」と気を引き締める。