「検査を簡単に、安心して受けられることが大事」―。道内で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、苫小牧市医師会の沖一郎会長は力を込める。2日にインフルエンザとの同時流行に備え、「苫小牧発熱検査センター」と「小児発熱検査センター」を開設。各センターの検査数は1日最大約40人の想定だが、早速30人をこなした日もある。医師が必要と思えばすぐに検査できる体制を強化したが、「ピークが来ても対応できるようにしないと」と危機意識を強める。
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2月に胆振管内で初めて感染が確認された当時、PCR検査は簡単には受けられなかった。国が公的医療保険の適用を決めたのも3月に入ってから。実施場所は「帰国者・接触者外来」を設ける病院などに限った。苫小牧保健所のPCR検査機も、4月は1日最大10件で、入院患者の再確認検査にとどめていた。発熱などに見舞われ不安を感じた地域住民にとって、PCR検査はハードルの高いものだった。
さらに当初はPCR検査の結果が出るまで約2日間を要した。東胆振唯一の感染症指定医療機関、苫小牧市立病院はPCR確定前の患者受け入れも余儀なくされた。今でこそ道内全域で役割分担されているが、当時は患者を受け入れるたびに、防護服など医療用具も次々と消耗。関係者は「あのままだったらパンクしていたかも」と振り返る。
そんな状況を市医師会が主体的に動いて見直した。5月25日、市内にPCR検査センターを開設。医療機関で検査が必要と判断された人が車で専用施設を訪れ、検体を採取する「ウオークスルー方式」を採用し、1日当たり8人程度から受け入れを始めた。検査は少なくても1日6~7人、多い日だと10人以上。10月下旬までに約700人に達した。
医師会は8月、全会員を対象にアンケートを実施。発熱外来設置の必要性を問う内容で、会員の4分の3ほどが「必要」と答えた。コロナは見た目だけでは症状を判定できず、感染リスクを懸念する声が多かった。しかし、設置への協力、看護師の派遣調整などについては多くの会員が「不可」と回答。「人員を割けない」「感染の恐れがある」などの意見が寄せられた。
厳しい環境下だったが会員らは協力し、PCRセンターの医師や看護師、スタッフなどの数を3倍近くに拡充し、発熱検査センターに衣替え。新規で小児専門の検査体制も構築し、コロナとインフルの検査を同時に行い、感染の有無を迅速に判定できるようにした。市民はもちろん、医療機関関係者の安心と負担の軽減にもつなげている。
「第3波」ともいわれる道内での感染拡大に先手を打つ格好となったが、沖会長は「インフルが本格的にはやるのはこれから。『今の体制でいいのか』となるかもしれない。試行錯誤しながらやるしかない」と強調。「最初は都会の病気と思っていた」と振り返りつつ「注意していても、どこでも感染する可能性がある。とにかく広がらないように、しっかり地域で取り組みたい」と話す。
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道内で新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。胆振管内でも感染者は急増し、2月からの累計で100人を突破。今月の感染者は既に月別最多だった10月を上回る。感染対策の最前線に立つ医療関係者は安心・安全を守るため、どう臨んでいるのか、現状や課題などを探る。