桜のトンネル

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  • 2020年3月12日

  東京電力福島第1原発事故で帰還困難区域になっていたJR常磐線夜ノ森駅と駅周辺道路の避難指示が10日に解除された。福島県富岡町の帰還困難区域では初めてだが、解除されたと言ってもわずか0・07平方キロ。まだ人は住めない。それでも2・2キロのうち300メートルしか行き来できなかった桜並木を500メートル長く歩けるようになった。「桜のトンネル」で知られる夜の森は、映像で見るだけでも息をのむほど美しい。

   10万人が訪れる桜の名所だった。原発事故の前までは。安倍首相は原発事故による汚染処理水は「アンダーコントロール」(制御されている)と言って東京五輪を誘致した。処理水の保管用タンクは22年夏までに満杯となるため、処分方法を今夏には決めなければならないという。海洋か大気への放出が現実的とされる。どこがアンダーコントロールだったのか。

   新型コロナウイルスをめぐっては全国の小中高校に臨時休校を要請し、10日には大規模イベントの自粛をさらに10日間程度、延長するよう求めた。もちろん感染防止と人々の健康が第一だ。しかし、自粛期間に確かな根拠はない。

   9年かかって、ようやく半分近くまで行き来できるようになった夜の森の桜並木。開花は下旬頃だろうか。3年前から復活した桜まつりとライトアップは今年、中止になった。咲き誇る桜の下を、せめて歩くことだけでもできるように、感染の終息を願う。(吉)

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