「珈琲怪談」/恩田陸著/心ざわめく極上の話

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  • 2025年6月10日

 あの「塚崎多聞」が帰ってきた。それも、なんと前作「不連続の世界」から17年ぶりに!

 作者である恩田陸は、「自分が創造した作中人物のうち、いちばん気に入っている人物は?」と聞かれると「登場人物に肩入れするタイプではない」と留保を付けつつ、「典型的な巻き込まれ型」である多聞の名を仕方なしに挙げていた。

 今回は、その多聞が堂々の主役を張る連作短編集である。「不連続の世界」の最終話「夜明けのガスパール」において、今回も常連となる3人の仲間たちによって、「夜行列車で徳島まで行き、さぬきうどんを食べ、その途中、怪談を語り合う」という、何とも浮世離れしたミッションに誘われた多聞。

 実はその試みは、多聞がそのとき直面していた問題を解決するために、仲間が仕組んだものと最後に判明するのだが、この「4人の中年男が徹夜で怪談を語り合う」という風変わりな設定は、作者にとっても、ことのほか魅力的なものであったらしく、今回の続編刊行となったわけだ。

 タイトルが、また良いではないか。題して「珈琲怪談」(「珈琲」に準じて、イラストレーターの藤田新策による装画と装丁もブラックとクリーム色に統一されていて、これまた心地良い)。

 夜行列車が変じて、今度は喫茶店となる。それも京都に始まり、横浜、東京・神田神保町、神戸、大阪と来て、また京都へ。歴史ある古い街の喫茶店で、とっておきの怪談話を代わる代わるメンバーが披露する、という趣向である。

 ちなみに著者自身が大の怪談好きで、この分野の草分け的存在である〈新耳袋〉シリーズから全99話をえり抜いた名アンソロジー「新耳袋コレクション」を編んでいることは、恩田ファンなら先刻ご承知だろう。その「あとがき」は「つまりは、こういう話が好きなのである」と書きだされていたが、本書にギュッと詰まっているのも、不条理で、心ざわめく、極上の物語ばかり。ぜひご一読を!

 (東雅夫・文芸評論家)

 (幻冬舎・1980円)

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