知人は、半世紀ほど前のクリスマスイブのことを、今でもはっきりと覚えている。どうしてもほしいものがあって、サンタさんに手紙を書いた。手紙は居間の長椅子の近くに置いた。サンタさんが暗くて読みにくいのでは―と、勉強机の蛍光灯を運んで、手紙のそばに置いた。
母はイブの夜、せりふも考えて、子どもの夢に付き合ってくれたそうだ。夜8時を過ぎると急に眠くなるから「外で鈴の音、聞こえなかった?」という声は早めに掛けた。息子がドアを開けると、そこには輝くような赤い紙袋が置かれてあった。知人が覚えている、うれしかったクリスマスだ。50歳を過ぎた今でも、思い出すと心がぽかぽかと温かくなる。
わが家の息子たちのクリスマスにもいろんな騒動があった。ある年、弟が「説明したいことがあるのでサンタさんにうちの電話番号を知らせたい」と難しいことを言い出した。手紙を書き、次は「サンタさんの住所が分からない」という。兄は「枕元に置いておけばサンタさんは読んでくれる」と助言したようだ。弟は助言を信じて、待ち、夢を手に入れることを学んだ。数十年後、自分が子どもに恵まれ、子どもの夢を買いそろえる苦心や、思いやりの大切さ、隠し続けることの難しさを毎年学んでいるようだ。(水)