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  • 2023年6月10日

  108年前の1915(大正4)年12月14日。道北の開拓集落・苫前村三毛別で一頭のヒグマが銃弾に頭を打ち抜かれた。胸から背にかけて白班のある、推定年齢7、8歳の雄。身の丈2・7メートル、体重370キロ、前肢掌幅20センチ。頭の大きな特徴的な体形のクマだった。集落を何度も襲い、母親や子どもを中心に計8人の命を奪った惨劇の主人公の最期だ―。

   現在の留萌管内苫前町三渓地区で起きた「三毛別事件」。概要は「慟哭(どうこく)の谷 苫前三毛別の人食い羆(ひぐま)」(共同文化社)に詳しい。大切な記憶は、時代や空間を共有した者の中に長く残り続ける―と思いたいが、過度の恐怖のために、無意識に消されるものもあるのかもしれない。著者の木村盛武さんは、国有林を管理する林務官だった父親から事件の恐ろしさを何度も聞いて育った。父と同じ仕事に就いた41年、事件が人々の記憶の底に埋もれていく現実を知り、再調査を思い立ったそうだ。

   今年は各地で例年になくヒグマの目撃情報が多い。忘れないこと。伝えることが人とヒグマ、双方の命を守る何よりの対策であることを改めて確認したい。

   書棚から「慟哭―」を取って読み直した。浅い眠りで夢を見た。「また大声で叫んでいた」と家人にいわれた。(水)

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