地域住民の命を守るため24時間体制で対応している苫小牧市消防本部。新型コロナウイルス感染のリスクを抱える中、救急隊は苫小牧保健所や市内の各医療機関と連携しながら、厳戒態勢で日々の救命活動に当たっている。
「救急車両1台につき3人乗車。ウイルス感染が疑われるケースがあれば完全防備で現場に向かっている」。苫小牧市消防署救急課の田中一夫課長(56)はコロナ禍の中の出動体制をそう説明する。
2019年の市内全体の救急出動件数は8461件。直近の20年1~4月末現在は前年同期比201件減の2601件で、1日当たり平均で20件超。この数を1本部5出張所の計7台で対応している。
新型コロナウイルスの流行を受けて厳戒態勢を敷いたのは1月24日。消防本部では03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)などの経験を踏まえ、感染症対策を随時改定。現在は消防庁(東京)が昨年3月に策定した「救急隊の感染防止対策マニュアル」の最新版に沿って運用する。
最近はウイルスの市中感染が拡大して感染経路がたどれないため、あらゆる事態を想定。通報時に傷病者の発熱症状などが分かれば、医療用のN95マスクと飛沫(ひまつ)感染を防ぐゴーグル、防護服を着用。最大限の感染予防措置を講じた上で現場に向かう。
救急車両は本部に帰着すると殺菌効果を持つ次亜塩素酸ナトリウムで車内各所を消毒。さらに小型のオゾン発生器で車内全体を細部にわたって滅菌する。その作業時間は30分。この間、隊員たちもシャワーを浴び、着替えを済ませて次の出動に備える。負担は増しているが、総務課の三戸英充課長(54)は「通報を受けてから1~2分で出動できる体制は取っている」と話す。
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苫小牧市内では新型コロナの流行以降、救急出動件数が徐々に減少している。1、2月は前年並みだったが、感染が拡大した3月は前年同月比7・8%減、4月は11・7%減と下がった。同本部はその背景について、「自粛要請で社会活動が減ったこともあるが、手洗い、うがいなど予防意識の高まりで健康管理が進んだ面もある」と分析する。
今回のウイルス対策は免疫力が一つのキーワード。健康意識の向上が出動件数の減少に一定の効果をもたらしていると言えるが、一方で「救急搬送の6割超は65歳以上。高齢者の中には症状を我慢する人も多く、重症化を招く恐れもある」という。
新型コロナに限らず、わずかな体調変化はかかりつけ医などの早期受診が重要。救急の最前線に立つ隊員たちも日ごろの健康管理の大切さを呼び掛ける。
本部に勤務する両課長は「職員がウイルスに感染すると本来の機能が発揮できなくなる恐れがある。市民の健康を守り、安心して利用してもらうためにもうつらない、うつさないという以前に、持ち込まないことが何より重要だ」と話している。